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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -3
76/111

76


左目に映る私の世界。       | 右目に映る私の世界。   

外はぼんやりした曇り空で、    | 外はぼんやりした曇り空で、

もどかしい空色。         | もどかしい空色。

いつもどおり階段で降りて行き、  | いつもどおり階段で降りて行き、

そこから駅までは徒歩で五分と近い。| そこから駅までは徒歩で五分と近い。

前方、背広姿の一人の男性が歩いてい| 前方、背広姿の一人の男性が歩いてい

る。彼は紺のブレザーに黒の革靴。 | る。彼は紺のブレザーに黒の革靴。

黒のビジネスバッグを右手に持ち、 | 黒のビジネスバッグを右手に持ち、

のろのろと歩いている。      | のろのろと歩いている。

そのペースに合わせていれば遅刻の | そのペースに合わせていれば遅刻の

可能性もあって、私は横を追い抜いた| 可能性もあって、私は横を追い抜いた

。そのさなか、相手の顔をチラリと、| 。そのさなか、相手の顔をチラリと、

横目に眺めた。          | 横目に眺めた。 

                 |

黒の髪の毛は七三に分けられ、黒縁 | 髪の毛はなく、目玉は真っ赤。

眼鏡をかけており、楕円形の口の  | こめかみの両側に赤い点の印があり、

形は薄い唇があり、頬にある皺が  | 顔には何もないどころか鼻の突起

四十代を思わせる顔の造詣。    | すらない。

                 | そこに顔の造詣はなく、 

                 | のっぺりとした平面状に点がいくつか。



私は思わず立ち止まった。

俯くように頭を下げ、自分の足元を見入った。


それから今度、目を閉じて自分のこめかみを押さえた。


いったい、今のは何!?


無意識に鼓動が荒くなる。

目を開けた。

コンクリートの地面。なんら違和はない。

平常どおりの、人工物としての道。その歩道を今、歩いているのだから当然だ。


私は、先ほど見た光景を、嘘とは思えない。

幻覚?

それも一種の可能性であり、何より困惑したのは、左右の目が別々の光景を見せること。


すぐに冷静となるのは無理強いしようが厳しいものがあった。

けれどその原因を特定するのに労力は要さない。

どう考えても、それは譲り受けた例のコンタクトの影響。

それに違いなく、むしろそれ以外の可能性は浮かばない。


けれど、重要な問題はそこではない。

問題は、私の右目が見た(・・・・・・・)のは、何か(・・)?ということだ。

それは一見して、人間、いいや、生物とさえ捉えがたい外見であり、

有機物としての要素を持ちえようとも、それは本能として同種の生き物であるということを否定した。


しかし先ほどの光景が幻覚、

寝不足による、疲労による、妄想による…その他における、そう!その他の可能性とて、多々あるのだ!

それこそ、私の摂取物ならびに外部環境からの影響さえ思惟すれば示唆され、それこそ、純粋に私の目玉が捉えたもの!とするのは尚早であると気づくとハッとした。だからこそ、再び顔を上げることを厭わず、前を向き、この世界と向き合うことにしたのだ。

このままでは遅刻確定である。

そうした現実感も失わず、だからこそこの両目を開け、再び歩き始めた。

いつもの道を。



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