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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -3
74/111

74


「最初はごく単純、とまで言わなくとも、まあいい加減なことが原因だった」

奥に座りホウイチと呼ばれていた、彼が言う。

その言葉に博士は頷き、次に私と目が合った。

「”有料放送”を知っているかい?」

「有料放送?」

「そう。当時、といってもまあ十数年前のことなんだけどね。その当時には有料放送があったんだ。といっても、それだけならば特に問題のあることじゃない。ただ問題だったのは、それが強制、ということ」

「強制!?」

「そう。勝手に電波を振りまいておいて、それを受信したら”さあ金を払え!”と来たもんだ。まったく、これでは強盗と何が違うんだろうね」

「そんなことがあったんですか…全然知りませんでした」

「馴染み薄いのも仕方ないよ。ここら界隈ではそういった事はないからね」

「何処の話なんですか?」

「コロニー2145」

「えっと…」

「聞いたことがないのも当然だ。辺鄙な場所にあるコロニーで、行くだけでもひと苦労するほどの場所だからな」

「でも、それが一体どういう関係を?」

私は語り部へ視線を向けたあと、再び博士に目を向け訊ねた。

「話は最後まで聞くものだよ。というか、ぼくたちも当時は驚いたんだ。まさかそんな横暴な制度が存在しているなんて思いもしなかったのだからね。それでだ」

「俺たちは行くことにした。そのコロニーへ解決策を持ってな」

「そうなんだ。ぼくと彼と彼女でね」

「彼女?」

「うん。もう一人居たんだ」

「その人は…」

博士は視線を下へ傾ける。「もう居ないんだ」

それは意味として分り易い仕草だった。

「…ごめんなさい」

「いや、いいんだ。話を続けるよ。それでぼくたちは、当のコロニー2145においても、その有料放送に困っている人たちに会ったんだ。つまり、それが動機だね」

まあ他にも…と小声で溢してから、話を続ける。

「彼とぼくで作ったんだ」

注目を浴びせられた彼は「ああ」と言って頷き、前屈みになって背もたれから体を浮かせた。

「それで俺たちは、そのコロニーへお手製の装置を持って舞い戻ったわけだ」

「低周波意識先導装置」

どんな装置ですか?と問われるのを予期したように博士が答え、

次に「何ソレ?」と言わんする事も予想の範疇。寧ろ当然の疑問として想起したように、

「単に人の意識をひきつけるだけの、簡易的な装置だよ」

と独り言のように博士は言葉を続けた。


「その装置は、”コロニー2145に住むおおよそ住民へこの道具を通して、現状の異常さを知らせる”。それが目的の行為だった。なんたってコロニー2145は、設立当初から有料放送が存在していては、それが異常であるとすら気づいていなかったようだからね。だからこそ強制徴収が在り得ていた。そこでは、移民以外にそれを異常と思う奴がまあほとんどと言っていいほど、居なかったのさ」

「…成功したんですか?」

問いに対して、博士は声を出さず不意に笑った。

それは最後の花火を見送ったときのような笑みで、不適ともいえれば、懐古するようでもあり、ただそのときゆっくりと示された頬の皺が、博士の今と今までの人生を成しているように感じたのは確かだった。


「結果を先に言えば大失敗さ」

「ほとんどの人に効果がなかった?ということで」

すか?と言わんとする前に、小さく何度も首を横に振っている姿。

「逆だよ」

「逆?」

「ああ、効果があり過ぎた」

「…あり過ぎた?ですか?」

「そう。効果があり過ぎたとして、どうなったと思う?」

予想外の質問に思わず閉口し、「さあ…」としか、そのあとには答えられず。


「全員、倒れたんだ」


奥の彼が言う。

「…えっ?」

「正確には、おおよそ全員。コロニーの住人が倒れてしまったんだ」

私は唖然として口を閉ざすも、構う事はなく博士は続けた。

「ぼくたちも当時は焦ったよ。なんたって、蚊取り線香を焚いた後の蚊みたいに、バタバタと倒れて言ったんだからね」

ふふっ、とそこで猫が笑う。

「その例えは上手いね」

猫は上機嫌に見えて言う。

それを博士は片手を少し上げて咎めるように応える。

「まあ同じような事だったんだ」

「蚊取り線香、とですか?」

「要は、アンドロイド取り線香だったんだよ」

奥に座る彼が言う。

その姿は猫と対照的であり、帽子に目を隠すように俯き加減で、つまらなそうに言った。



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