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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -2
73/111

73



「でもまあ…」

そう言って博士は席を立ち、猫の傍へ近づくと屈んでその頭を撫でた。

「こいつの言う通りなんだよ実際、ぼくの今言った話は矛盾している。それこそ破綻しているのさ。なぜなら、ぼくの話した”神の証明”もまた、論理的に推論した答えなのだからね。だからこそ誤謬があって、つまりぼくの言わんとしたその”神の証明”もまた、論理として説明をした時点でその効力を失っている。それこそ最初に言ったように、”真理がない”として”論理”を否定した限りではね」

語り部はその間中、猫の頭を撫でて居り当事者は少々、ゴロゴロと喉を鳴らした。

しかし博士の言わんとする事をそのまま真に受ければ、それこそ…

「そう、つまりこの状態、つまり”論理”を禁じられたとすれば、それこそヒトは科学も、追求しようとする”真理”への意思さえ奪われる事になるだろう。でもだからといって絶望する事はない。それでも、真理を解明する事はできるのさ」

得意げに語る姿。その横に映る猫はもう頭を撫でられてなく、私の脚のほうへ寄ってきた。

「方法としてはシンプルだよ。その原因となる元は何か?それを探せばいい。そうしてぼくたちの思考を、思念を、概念さえも奪おうとするのはなんだい?それは他ならぬ…」

「もういい加減にして下さい!」

洗脳染みた言動に対しての、私の答え。

「仰りたい事はだいたい分かりました。どうか、私にとって一番重要な事を教えていただけませんか?」

「…なにかね?」

「どうしてこういったことを、私に話したんです?」

博士は一度視線を外し若干、間をおいてから喋り始めた

「なるほど確かに。そういった疑問も尤もだ。けれどね、それは、きみだから、ではなく、ぎみだったから、とするのが正しいんだ」

自ら質問しておきながら、その答えを聞く気は既になかった。

もうこの場を後にしようと、立ち上がりかけていたからだ。

これでもう討論はお終い。

と言っても討論とは名ばかりで、一方的に相手の話を聞かされていただけあり、こちらもおとなしくそれに付き合ってあげた暇人に過ぎない。何かを期待したのは失敗。ここに来た事を後悔させるほどには相手の妄言シャワーをたっぷりと浴びては、随分と辟易していた。足元に来た猫の頭にもようやく触れられ、撫でられた事に満足を覚えるともうこの場所に止まる一切の理由は感じなくなっていた。


「きみが今日、ここに来たのは自殺の事を知りたかったから、だろ?」

立ち上がって部屋のドアへと踵を返し、相手の言葉を聞きながらも動きを止めず背中越し聞こえた声。それは冷静として落ち着いており、高揚のない声音。

「きみのお父さんは殺された。それは間違いない」

その言葉には、不覚にも身動きを止めてしまった。

振り返ると博士は椅子に腰掛け直していた。

「まったく、きみはせっかちだね本当に。まあいいよ。本当は色々と具体的に知っておいてもらいたかったんだけどね。でもそれは後々でも良さそうだ」

「どういう意味ですか?」

返答の前に視線で促がされ、渋々席に戻った。

ちょうどその時、私が出て行こうとしていたドアが開き、帽子を深々と被った一人の男が入って来る。

「どう?話は終わった?」

開口一番、その人物は言う。

私と博士と猫へと視線を投げ掛けながら。けれどこの人は前回においてもここに居た人。だからさほど慌てることも警戒心も抱かず、ただその姿を受け入れていた。この人は前回、パソコンのようなものに向き合い、部屋の片隅でずっとそれに向かいキーボードのようなものに手を動かし何かの作業をしている姿を見せ、博士の名前の由来を聞いたのも彼からだった。


「おかえりホウイチ。ちょうどよかった。今から話すところさ。例の事をね」

博士は彼にそう言い、

「そうか」

そう言って彼は、奥のほうへと向かう。

「よう」

猫も声をかけ、「ああ」と彼は答える。

そうして彼は再び隅にある一人用のデスクの椅子へ腰掛け、またもパソコンらしき機械と向き合うように座るが、今度は椅子を回転させてはこちら側に体を向け、腕組みをして陣取った。

「これで役者は揃ったわけだし、本題に入ろうか」

猫が不意に言う。

ようやく、と言った様子で、博士は背筋を正して座りなおし、猫はちょこんと行儀よく前足をそろえた。

次にぴょんと飛び、テーブルの上へ。

「あ、こら!」

「文句を言うなら、椅子をもうひとつ用意してから言うんだね」

猫は構う様子もなくテーブルの中央へ。全体を見回すよう渦みたいにその場で回転すると三人のほうへと顔を向けた。そのあと場所を定めたらしくテーブル端のほうへ移動。そこを自分の場所と定めたらしく、前足揃えて後ろ足は均等に添え、正座のごとく姿勢よく佇む。

ようやく落ち着いた猫の姿を見てから、博士が口を開いた。


「じゃあ話そうか。そもそも、ぼくたちがどうしてこの現状、やつらのことに気づいたか?と言うことについてをね」




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