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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -2
72/111

72


するとその猫のニヤニヤした表情を見て、

「ようやく気も済んだか」

と博士が安堵した様子で言い、

「それはどうかな?」

猫は顔を向こう側、博士のほうへ翻して、鋭い声を聞かせる。

「まあでも…」

そういって猫は腕を上げ、顔の、おそらく頬辺りを手で掻いている。

「そのうちでは…カレーパンは美味かったかな」

等と猫は言う。

頼んだピザがないとわかった時には怒り狂ったようにそのカレーパンに飛びつき2個とも乱暴に頬張っておきながら、よくもまあ、あの憤った様子でそこまで味わえたものだなと、妙に感心していれば博士の視線を感じた。

「にしてもだ、どうして完全なる真が存在しないとして…」

科学は存在をしているのか?

おそらく博士はそう続けたかったのであり、先ほどの話題を戻そうとした最中。

「そんなものは存在しないんだって!」

猫がまたも割り込む。しかし今度の博士は、話を止めなかった。

「いいや、それは証明ができるんだよ」

その言葉に「まさか!?」と猫は目を見開き顔を少々仰け反らせ、まるで初めて害虫を目視したときのような分かり易く驚愕した表情を作るので、むしろそれは虚偽らしく思わせた。けれど余りにわざとらしいので、それはついに嘘の嘘。二重の意味での(・・・・・・・)虚偽(・・)を思わせるほどだった。


「完全なる真はあると思うかい?」

「それを存在しないと、先ほど説明したのでは?」

問われて問い返すと、相手は少々意外だ、としたように一瞬、体を後ろに引きながらも表情には余裕のある笑みをすぐに見繕っていた。

「そうだったね。けれどその発言を取り消す事無く、そうした完全なる真、あるとすれば一体なんだと思う?」

「…かみさま?」

この適当な答えは相手を本気で驚かせたようで、博士の口を無言として開けさせるだけでなく若干の間も空けた。


「…正解。そのとおり!いやあ素晴らしい!大正解だ!」

おめでと!と猫は不器用に、音がぜんぜん鳴らさぬ拍手を、肉球合わせでぺちぺちとする音を微小に聞かせた。

「実際、完全無欠として存在する真、それは神に他ならないんだよ!」

博士はそこで興奮したように前のめりになって、テーブルの上へと乗り上げてきそうですらあった。

そこで私は妙なにおいを嗅ぎ分けると思わず身を退き、警戒するようにその姿を見つめていると、博士は広角に笑みを持って口を開く。

「もしかしてきみは、科学とまるで相反するであろう神というものを啓示することに、まるでぼくが新興宗教の教祖のごとく神への崇拝を強要しようとする…とでも、もしかして思っているのかい?」

「違うんですか?」

「違うさ!なんたって、これは科学的(・・・)なことだからね」

「はい?」

思わず戸惑ったのは、対立する概念。

神と科学。

それらは譲歩しようが、根本では合間みえないものであると思っていたからだ。


「さっきも言ったように、論理構造それ自体に、絶対な真は存在し得ない。それこそ絶対に。しかしそれだと、科学は成立しなくなってしまう。絶対的な前提や命題が存在しないのだとすればね」

「じゃあ、そこでどうして神が…」

「ふと考えれば自然と分かる事だよ。つまりこういうことだ。

人は科学を成立させるためにも、”絶対なるもの”、それを求めた。その結果、生み出したのが『神』というわけさ。そして、そこには”絶対真”があり、”絶対真”だからこそ、それは”神”なんだ。いいかい?」

「…はあ」

少し混乱していた事は否めない。場の雰囲気、勢いに飲まれそうであった、ということも同様に。


「つまり”絶対真”であるものを、”神”が存在しているからこそ、そこに”真”とできる前提や命題が誕生した!それによって科学は成立しているのであり、”絶対真”とする”神”を定めているからこそ、科学は成り立っている」


「それっていうのはまあ、”神の証明”だね」


猫はそれほど興味関心がないように、ぶっきぼうに言う。

「でも面白いね」

猫は言葉を続け、雄弁に語る。

「自然科学にしろ、科学的知見が深まるにつれて人間というは神を背離させようと勤めてきたのに、その科学を成立させて(・・・・・・・・)いるのは(・・・・)、実は神に他ならないん(・・・・・・・・)だからね(・・・・)。とんだ皮肉で、まるで矛盾。それとも、これもまたパラドクス?とでも言うのかなあ?」

猫はキョトンとした顔で饒舌に喋り、尻尾が立ち上がっては?の彎曲を描くような形を呈した。



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