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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -2
67/111

67


「ところできみは、神を信じるかい?」

また同じ席へと案内させられると、向かいに座った博士はいの一番に、こう訊いてきた。

「どうして、ですか?」

「だって以前、きみは笑っていただろ?神について言うとさ」

「そうですね…」

忌避たる思いで言う。

「神様なんか、居ないと思っていますから」

「無神論者かい?」

「いいえ」

首を大きく横に振ったけれど、そこに憤る意思はない。

「そもそも、認めていません。だから、無神論者にさえ成りえません」

「へえそうなのか。けれど、そこまで嫌うとなれば、何か理由があるのかな?」

「かもしれません。でもそれを、ここで言う必要はないと思います」

「そうかい…」

私としては、このような話題は正直、どうでもよく、さっさと本題に入ってほしいと思っていた。

「でもねいいかい?もしもだ、神さまがいて、それが仕組んだ事だとしたら、きみはどうする?」

「仕込んだって…何をですか?」

「すべてさ。そうだな、きみが今、苛立っている事とか、さ」

「そんなの…ぶっころしてやりますよ」

「それはそれは、おっかないねえ」

「あのう、いい加減にしてもらえませんか?」

「うん?」

「私はこんな雑談がしたくて来たわけじゃないです!」

「まあそう焦りなさんな。こうした会話だって、きっと有意義だぜ?」

妙な言葉遣いに、それは意味を含むのだろうかとする前、言葉を続けられた。

「もし神様がいたとして、それを認識できないのは(・・・・・・・・)、どうしてだと思う?」

「それは…」

頓知だろうか?一瞬、悩み、言い淀む。

「…居ないからじゃないですか?」

その問いに真面目に答えてなにか有益さがあるようには思えなく、適当な答えを返事として呈すと相手はにやりと笑う。

「じゃあ、今そこに、きみは居るかい(・・・・・・・)?」

「はい?」

この人はいったい、何を言っているのだろうか?

「あのう、話を変な方向に持っていこうと言うのでしたら…」

私はもう帰ります。

そう言おうとした手前。

「まったくだよね。回りくどいったら、ありゃしない!」

声は床近くを発信源としながら移動し、テーブルの下。

反射的に覗き込むも人間は居らず、スピーカーらしき装置もない。

「ひとことで、言ってやりなよねえ!」

大きく波打つ尻尾は背を見せ、振り返る。

さっと目が合うと、ずかずかとこちらへ近寄ってくる。

脛の前、ぴたりと止まると前足をそろえて座ってみせた。

「あんた、こう訊きたいんだろ?親父をぶっ殺した(・・・・・・・・)のは、あいつらか(・・・・・)?ってね」

三毛猫は口を開けると、流暢にそう言った。



「おいおい割り込むなよ!いいか?物事には順序ってものが…」

「順序なんてくそ食らえ!」

猫は再度振り返って博士に向い口答えした後、右の前足をちょこんと上げると裏返し、博士に向って真ん中の爪(・・・・・)を立てた。

「…まったく、こいつは、どこでそんな汚い…」

「ことを覚えたのは、ここでだよ、博士」

猫は一歩も引かずに言い、それから私の視線に気づいたようにして顔を翻す。それから数歩、歩いてはテーブルの下から出ると、二人の視線を注目として浴びた。

「…見てのとおり、うちの猫だ。名前は…」

「まだない」

博士の言葉を遮り猫。

「な!?お前、」

「いいから黙りなさい。やあお嬢さん。こんにちわ。お初にお目にかかります。まあといっても、二度目だけどね正確には」

「前にも?」

「そこの下で見てました。やり取りも、聞いてました」

テーブルの下を、腕を伸ばして指す。その際、微かに肉球が見え隠れ。

「そうなんですか?」

博士に問う。少々気まずそうに視線をそらし、「うん」と頷いた。

「どうして隠していたんですか?」

「理由はおいおい説明しよう。それより、さっきのことだが…」

「神は死んだ…それでもう、いいじゃねえか」

「お前は引っ込んでろ!」

「いやだね」

「あのう…」

二人の罵詈雑言とするやり取りの最中、忘れ去られている状況に声を。

「うん?ああすまない、ええとだね、つまり、僕が言わんとすることは…」

「やったのはあいつらだよ」

「おいっ!」

「そうなん…ですか?」

「ああもちろん当然」

猫は尻尾を振って嬉々した様子で言う。

視線を博士へ向ける。

「…ああ。そうだ。こいつの言うとおりだ」

「…どうして…なんですか?」

私の口から漏れ出た、この問いには、複合的な意味が成されていた。

しかしそうして複雑に紡いだ言葉は、あっけなく解かれた。

「そんなことは簡単さ。世界を乗っ取るのに、それ以上の理由が必要かい?」

猫は平然と、堂々と、まるで勝ち誇るように言った。二本足で立ち上がって、前足二本で腕組みを見せながら、人間みたいに。




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