表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode A -2
65/111

65


「そう、つまりさっき話したような学者たちにおける、究明は失敗に終わった」

「…じゃあ、どうすればいいんですか?」

「うん」

博士は立ち上がり、思考を脚の動きと連動させるように、歩き出しながら語り始めた。

「「1+1=2」ではなくなってしまった世界。

そこで学者は「なぜ1+1=2でなくなってしまったのか?」

を考え、そこに原因究明を求める。

しかし実際には逆だったんだよ」

「どういうことですか?」

「そこに解決の糸口はあらず。実際には、

「なぜ1+1=2でなくなってしまったのか?」

ではなく、

なぜ今までは(・・・・・・)1+1=2(・・・・・)だったのか?(・・・・・・)

を探る必要があったんだ」




私が博士と出会ったのは、ふとした偶然だった。

ある日の帰宅途中。雨日和。

私は暴走車のように速度を出していた車に轢かれそうになった。

寸でのところで何とか回避し、すると別の、一台の車がのろのろと近づいてきた。

「きみ、大丈夫かい?」

博士は眠たそうな顔を下げた窓から覗かせ、声をかけてきた。

「はあ、なんとか…」

先ほどの危機に対しての温度差と緩急。つまりただぼぅとしたように返事をしていた。

「いやあ、実に危なかったね。それにしても、よく避けられた(・・・・・)ものだ」

「ぎりぎりだったですけど。それにしてもあの車…」

「気になるのかい?」

「それは一応。あの調子だと、おそらく事故を…」

「起こすだろうね。ただひとつ訊かせてくれ。悪意のない(・・・・・)行為(・・)は、悪かい?」

「はい?…それは当然、だと思います」

「じゃあさらに訊こう。もし向こう方が、全く気づいて(・・・・・・)いなかったとしても(・・・・・・・・・)、それは悪であり、裁かれるべきものかい?」

「それも当然です。不注意は、運転側の責任ですから」

「ほう」

博士は興味深そうに目を少し見開き、

「では、きみはどうして(・・・・・・・)そこに立っていた(・・・・・・・・)のかな(・・・)?」

「それは帰宅途中ですから、それもまた当然…」

「まったく、きみという人間は何かというとすぐにそれだな。当然、当然、当然。まるで…そう、機械みたい(・・・・・)だ」

「えっ?」

思いがけない言葉に、すぐに言葉を返せなかった。

「はは、冗談だよ。でも本当に危なかったね。傘も折れているじゃないか。よかったら送ろう。さあ乗りなさい。説明してあげよう」

「…説明?」

「さあ早く!」

「でも…」

「もちろん強制はしないよ。でもきみがもし、知りたいと願うのならば、ついてきなさい。説明してあげよう。きみが今、ふと疑問に思ったであろうこともね。尤も、それが分かるとも限らないが」

挑発とする芳香を嗅ぎ取り、それは湯気のように憤りを喚起させた。

「…分かりました」

既にそれが私の行動を決定付けていた。

そう。

つまり先ほどの場面。私は轢かれそうになり、そこで助けられた(・・・・・・・・)訳ではない(・・・・・)のだ。





話が終ると、送ってくれるとのことは嘘でなく、再び車へ。

しかし降ろされた場所もまた同じだった。

「自宅まで送ってくれるのでは?」

「ここでも自宅まではそう距離はないだろう?それに、もう雨も止んでいる。それでも、家の前まで送ったほうがいいかな?」

「…いいえ、ここで結構です」

そう言い車を降りると、窓がゆっくり下がるのが横目に入った。

「あ、そうだひとつ言い忘れていたよ。もしまた面白い話を聞きたくなったら、ここに来なさい。運がよければ、また通り過ぎる際に拾って行ってあげよう」

「…そうですか」

「ではおやすみ」

車は走り去って行き、私は自宅までの数分の間に、開いた手をじっと見つめては、指を折り、開き、折り…と反復するように、確認するようにそうした動作を繰り返した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ