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彼らの考えは失敗した。
今にして思えば、この言葉こそそれを明確に示していたのだから、皮肉とでも言えようか。
「つまり、学者たちは、その違い、これまでとの違いを求めようとしたのさ。そこに解決の糸口があると信じてね」
「…なかったんですか?」
「お茶、冷めるけど、いいのかい?」
「どうでもいいですから!早くその先を!」
「もう、君は若いのに急かすねえ、いや、若いからこそか…」
そう言って「うーん」と腕組みしてひとり別の世界、考え込むようになりそうになるので「博士!」と声をかけて呼び止め、「ああ、すまんすまん、続きだったね」という。まったくこの人は。
「彼らの推論もまったく見当はずれではなかった。けれどまあ、それこそ誤謬というか、まさにすれ違いだね」
「どういうことですか?」
「まあ、端的に言えば、箱庭」
「箱庭?」
「そう箱庭。手のひらで踊らされていた、ってことさ」
彼らは、「1+1=?」となった世界の現象、その理由を探ろうとした。
つまり、ここで「1+1=2」に成らないのは、
旧式の思考を用いて考えれば、
「1+1=2にならないのは、それすなわち、”1”が1以上、もしくは”1”以外の意味を持つから」
であろう、と考えた。
「つまり、彼らは、その”1”に含まれる隠された意味、1以上のもの、”なにか”を探したわけさ」
私は思わず唾を飲んだ。
「…それは見つかったんですか?」
博士は首を横に振る。
「いいや、そもそももし、そこでその”なにか”が見つかったとしよう。では、それでもそれは、はたして「1」なのかな?」
博士はそこで不気味に笑い、そして急に立ち上がるのだから、私は若干、慄いたように体を震わせた。しかしながら”ビクッ”とした体を見つからないようにと体を少し背け、気づかれないようには注意した。
「ど、どうしたんですか?」
「ん、トイレ」
そう言って博士は席を立ち、深刻な雰囲気をまるでものともしない。そうしたマイペース具合に辟易の意味を覚えると、近くに居た人に思わず声をかけた。
「あのう、博士は日系のように見えるのですけれど…」
「ああ、あの名前?あれは本名じゃないよ」
「そうなんですか!?」
「うん」
と答える。
「ここの人たちはみんな、本名で呼ばれてないからね。ほら、一応、レジスタンスみたいなもんだからさ、ここは」
そう言ってこの人ものんきな風に、あははは、と笑う。
「で、ではどうしてチャーリーと?」
「ああ、あの名前?」
するとその人はまた「ぷっ」と噴出し、小笑い。
「あの人はブラウンブレッドが好きだからさ」




