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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
プロローグ
6/111

6


翌日。

ぼくたちは三人で早速コロニー2145に出向いた。

国営放送に対抗する術というは、至極シンプルな方法。

コロニー2145に住む人々を、この盲目的状況から打破するように導くこと。

ただそれだけだ。

しかし、ここの住人だって馬鹿じゃない。

有料強制放送の異常性に気づいている市民も居るだろう。

だが彼らとて、知っていながら何も行動を起こせずにいる。

さもそれが当然のことであって、他のコロニーが異常。

われわれのコロニーが正常であって、他のコロニーの現状などはまさに対岸の火事(・・・・・)

そうした異常な状態を少しでも戻そうと、ぼくたちは注意喚起を行った。

尤も、そのために用いた道具といえば、良平が持参した手持ち型の小型端末ぐらいだ。


「”大は小をかねる”って言うのはまさに正だな」

街に着くと早速その端末を起動させ、綻んだような表情で良平が言う。

「あれは何?」

ぼくの横で彼女が良平を横目にじっと眺め、訊いてくる。

「ああ、あれ。あれは‥」

「低周波意識先導装置、とでも言えば分りやすいかな?」

彼女の呟きを捕らえていた良平が、得意げになって答えた。

「低周波意識先導装置?」

「そんな大げさなものじゃないよ。良平の造語。単に人の意識をひきつけるだけの、簡易的な装置だよ。尤も、その意識をひきつけるのだって、モスキート音を聞かせるようなものさ」

キョトンとする彼女にぼくは説明し、来栖はあいまいな表情で二度、頷いた。

「そうなの。でも良平くんってすごいんだね。そんなものを作れるなんて」

「いやあ、これは単に電磁波工学の一端に過ぎないよ。もとは電導窯における熱蓄積とその反射率を勉強する際に、ついでと思って取った電磁気学と脳神経学の応用だから」

「脳神経学?パン屋さんになるためにって、そんなものも勉強するの?」「あいつは例外だよ」ぼくが口を挟むのは、羨望のまなざしに対する嫉妬も含有していた。

「そうなの?」

「そうだよ。顧客を洗脳でもするんじゃないのかな?」

「おいおい勝手なこと言うなよ。それは味覚の追究に関してだな‥」

「早速効果が出始めたみたいだぞ!」

僕は自分の端末に表示される再生数を確認すると高揚し、体は火照り始めた。

「本当か!?」

「なに?どうしたの!?」

二人がぼくの端末を覗きこんでくる。

そこには昨夜に作成し投稿した動画、それの再正数が指数関数的に跳ね上がっていく。

「これって‥」

「うん、成功だよ!」

ぼくは来栖に笑顔を向けるが彼女はまたも把握し切れていない様子で、お面のような張り付いたぎこちない笑みを見せ、「低周波意識先導装置の勝利だな!」と良平は自慢げに言う。

「低周波に情報を持たせたんだ。このページのURLをね」

「そんなこと‥できるの?」

「技術的には全然問題ない。ただ‥」

「ただ?」目をそらす良平をじいと彼女は追いかけるように見つめ、「違法すれすれ」とぼく。視線がこっちに戻ってほっとしたのは内緒だ。

「やっぱり」

「うん、でも仕方ないかなと」

「おおよ。これでここの市民全員が目覚めれば、正当性も主張してくれるだろうぜ」

「そんなにうまくいくかしら‥」

「でも再正数」

ぼくが急きょ作ったその動画は、ここでの有料放送における強制徴収性の異常さを平易にそして大げさに言い示した内容。伝わりやすさに関しては問題ないはずだった。なかでも、”強制徴収による放送”はここだけであるという異常性を特に強調しておいた。

「まるでプロパガンダね」

その動画再生を観ながら彼女が言う。

「これぐらいインパクトがないと駄目だよ」

「注意喚起には、注意を引く異常さがあってちょうど良い。異常なものには異常で対抗するってことだ」

良平が言い、

「そういうこと」

とぼくも同意する。

彼女は腕を組んでぼくら二人を見た後、呆れたようにため息を。

「捕まっても知らないわよ」

「もう共犯じゃん?」

「ええ!わたしも!?」

「そうなのか!?」

「だって、ぼくたちってもう‥」

「「なに?」」

二人の声がそろってぼくに訊き返すので、思わず噴出す。

くくっと声を殺すように笑って一呼吸おき、

「ぼくと来栖は‥」




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