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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
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…随分と長い時間が経過したらしい。

体感からしてそれは熟睡から目覚めた際の気分とさほど変わりはなかったのだが、実際には三日とも、一週間とも、一年とも感じられた。

気がつくと、光沢がありリノリウムを思わせる真っ白な天井がまず目に入った。

ゆっくり上半身を起こして見回すと、どうやら署内の医務室と分かって、どうして此処に!?と慌てふためかずにただぼんやりとまどろんでいた。

すると常在している医務員が気づいた様子で、「大丈夫?」と近づき声をかけてきた。


「…ここは?」

意識が定かでない中、訊ねると「もう大丈夫ですよ。あなたは倒れていたんです」とその医務員は告げてきた。

「倒れていた?」

当時の記憶は曖昧でおぼろげ。明確には覚えていなかった。


「そうです、それで運び込まれてここに」

わたしは記憶を想起しようと頭に手を当て、唸り声を若干上げる。

「…あの男…マスクの…そう!”キャットウルフ”とかいう、ヒーロー気取りの奴は!?」

頭を殴られたことを名前とともに思い出すと思わず憤った声が飛び出し、

「キャットウルフ?」

目の前の医務員は初めて聞いた単語を前にしたような表情を見せる。

「そうよ!知っているでしょう!あの男が…」

「すいません、ええと…」

そう言ってわたしの言葉を途中で遮り、慎重に瞳を覗きこんで来ると一息つき、


「私にはあなたが何を言っているか、理解しかねるのですが」


と言ってくる。


「それは冗談?それとも、からかっているの!?」

既に体調は万全になったかのように身体は苛立ちで火照り微かに震え、不意打ちへの侮辱と自分への不甲斐なさという、向けようのないこの情動をとにかく処理しようと身体が機能しているようであった。

すると相手はわたしの脈をとるように腕を取り、「…落ち着いてください」と穏やかな声。

それからわたしの目を再びじっと見つめ、呼吸が落ち着いたのを見払ってから声をかけてくる。

「落ち着きましたか?」

わたしは頷き、溜息一つと共に呼吸を和らげた。

「もう大丈夫そうですね。ではいくつか質問しますので、可能であれば答えてください」

それに対して再度頷き、当時の情景を出来るだけ鮮明に思い出そうと、脳裏に描こうとしたとき、

質問が飛んできた。

「まず一つ目です。どうですか?何処か違和感や痛みはありますか?」

問われてようやく自己の状態に気を向け、すると多少眩暈を感じ、微かな吐き気は食欲に似ていた。

「…145-4」

「分かりました。では二つ目です。あなたは何処かの旅行客ですか?」

「…えっ?」

その瞬間、体のどこかに穴が開いたように、力が抜けて感じた。

「ちょ、ちょっと!何を言っているの!?わたしは…」

「すいませんね、倒れていた際、付近に身元を確認できるものが何もなかったもので」

「だからわたしは!」

そう言い、改めて、というかそのときに成って自分の格好を確かめた。

わたしは警察の制服を着ておらず、ただ白いシャツと青いジーンズを履いており、しかし脱いだ記憶もなければ、着させられた記憶もしない。

「…これは?」

「ん?どうかされましたか?」

「その…あの、これは…ここは、その、何処ですか?」

わたしの質問に相手は取り乱したりもせず、寧ろ慣れきった、といった風情で口を開き、

「ここはコロニー2145です。もしかして漂流者ですか?」

と訊いてくる。

「漂流者?いいえ違う、違うわ!わたしは…その、わたしは…」

言葉が出てこない。喉まで出掛かりながらもそこでつっかえ、出てこないのだ。

しかし相手は微笑み「大丈夫ですよ。きっと事故による一時的な喪失状態なのでしょう。もう少し、ここで休まれば、きっと良くなりますよ」

そう言いわたしの肩と背中へ手を当て、寝かしつけるよう徐々に体を倒され、再びベッドへ仰向けに寝かされた。


「…どういうことなの?」

独り言が漏れ出る頃にはハッとし、

「そうだ!アイリス!彼女なら、わたしの事を知っているはずよ!」

飛び起きるように言葉を出しては去り行こうとしていた医務員の足を止め、投げかける言葉を続けた。

「ねえアイリスっていう婦人警官が、この署に居るはずよ!その人とわたしは一緒に行動をしていたの!」

医務員は振り返って「アイリス…確かにそのような人は居たと思います。では、連絡を取ってみましょう」

するとその場で無線機のようなものを取り出して操作を始め、機械に向いしゃべり始める。

わたしはただその反応を待った。

微かな後、医務員は再びわたしの元へ近づき、期待に赴き煌煌とするわたしの顔へ

「連絡は取れました。確かにアイリス職員は居ますが、あなたのような人は知らない、とおっしゃっています」

「うそよ!!」

わたしは思わず声を上げ、目を思い切り見開いた。

相手は困ったように掴まれた右服の袖に手をやり、わたしの手を払うと、

「アイリス職員はずっと単独で行動していたと申しています」

「…単独?」

「ええ、そうです。あなたの間違い…いいえ、その前に…」

そうして看護員は再び機械を取り出し、何処かへ連絡をはじめ、わたしは思考が頭の中でぐるぐると円を描いて回り始め、どういったことが起きている?現状は何だ?と、出来るだけ冷静を保ち、腑に落ちない現状をどうにか理解しようと、現状把握に努めようとする。

「…そうだ!そうよ!」

一つのひらめきは直後に瞬き、目を輝かせて問う。

「雛尖は?彼女だって一緒だったのよ!きっと彼女なら私のことを説明してくれるわ!」

そうしたわたしの目を相手は邪険に一瞥し、

「雛尖?そんな人、聞いたことありませんけど」

「そ、そんなはずは…」

「きっと疲れて記憶が錯乱しているのですよ。今はゆっくりして、体調を戻すのがいいでしょう」

そう言われて強制的に寝かされる。布団をかけられ、わたしはそれもそうかと目を瞑る。

だがそのとき、激しい頭痛が突如に襲い、割れんばかりに頭が痛い。

耳鳴り。キーンと高音が鳴り止まず響く響き続ける。



痛い、まが、あた。

瞑り、だから、眠った。目をわたしは。

そうだから、今度は。夢が、いい、見れそうだから




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