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するとデスクの一角、その物陰から何かが動いて見えた。
「な、なに!?」
思いがけない物音にアイリスは慄くように身を引き攣らせ、逆に雛尖は腰を屈めて音の方へと歩み行く。
「メディちゃん!」
雛尖が声をかけると、デスクの影から機械猫がひょいっと飛び出てきた。
「なんだあんたかい…もう、びっくりさせるんじゃないよ!」
アイリスはメディの姿を目に入れると憤慨するように言う。それでも表情は随分と和らいでいた。
「………」
メディはボソボソと呟くように何か言ったらしく、抱きかかえようと手を伸ばしながら雛尖は「ええそうね!」と返事し、わたしたちにはメディの声ははっきり聞こえなかった。
それから雛尖がまたもメディを抱え上げ、立ち上がって振り返るとわたしたちの元へ。
「あんた!いったいどこへ行っていたの!もう、心配したんだよ!」
アイリスが機械猫へ怒鳴るように言うと、
「…ゴメンナサイ」
メディが気落ちしたように顔を俯かせながら喋り、「まあまあ」と雛尖が割って入る。
「この子だって仕方なかったんですよ、きっと」
「仕方がなかったって、どういうこと?」
わたしが思わず問うと、雛尖は目をこちらへと、見据えるように見つめてくる。
その姿勢に嫌悪を抱きそうになる手前、彼女は表情を一変させるように微笑み、
「それより、早く次の行動に移りましょう!」
と喜ばしげに言う。
「行動たって、この状況。‥どうすればいいのかさっぱりよ」
アイリスの言葉に横でわたしも頷き、雛尖は抱き抱えた機械猫を見る。
「ねえメディ、どうしてここには誰も居ないの?」
わたしが問うと、メディはゆっくりとこちらへ顔を向けて、口を開く。
しかし言葉を発さず、まるで欠伸をしているかのように見えた。
それから雛尖のほうへ顔を戻し、
「コノケンノハンニンハ、オソラク、ダンテイデキテマス」
と、無機質に言う。
「それ本当!?」
わたしとアイリスの声は偶然にも必然的に重なり、機械猫はこちらを一瞥して頷いた。
「案内してくれる?」
雛尖が自身の腕の中へ、笑みを添えて訊ねるとメディは頷いた。
「ワカッタ」
機械猫は、ただそれだけを言う。