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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
42/111

42


塔の外へ出ると、

「お待ちしていました!!」

とカヌレさんが出迎え、その後方には町人全員が総動員して見えるほど大勢の人々。

彼らはぼくの姿を見ると歓声を怒号のように上げ、

「よくやってくれた!」「あなたは英雄よ!」「これでこの町も安泰だ!」

と、嬉々した声が希望として溢れかえる。


「ご覧のとおりですよ!」

カヌレさんは後ろの大群を手のひらをかざして指し示し、


「討伐、ありがとうございました!!」

として仰々しく頭を下げてくる。

「いえいえそんな…」

「ささ、謙遜なさらずに。あちらにはご馳走を用意してありますので!」

そう誘われて向えば、

向こう側の広場には真紅の大テーブルが用意され、卓上には至る所にいくつもの大皿。

どれにもこんもりと料理が盛られており、食欲を推進する匂いが何処からともなく漂ってくる。


「さあ最高級のご馳走も酒も用意してあります!盛大に祝いましょう!!」


カヌレさんが先頭に立って音頭を取り、さあさあと町人に囲まれグラスを掴まされるとすぐに紫色の酒が注がれ、「乾杯の容易は出来ましたか?」とカヌレさんが数歩、遠くから訊いてくる。

「ええ、でもあまり食欲が…」

先ほどの光景が目に焼き付いたまま、想起をすると一変して食欲は衰退して思えた。


「なあに、大丈夫ですよ!この町の代表的な料理は、まさにそんな貴方様にうってつけ!」

「…そうなんですか?」

「ええ!」

カヌレさんが答えると、囲む町人みんなが笑顔で頷いた。

「この町の料理は通称、”仕事が好きになる”。

食べれば気分は高揚し、もっと食べたくなる。そんな美味しい料理ですから!」

「はあ…」

と気の抜けた返事をした瞬間。


「では、乾~杯!!」


カヌレさんが盛大にグラスを掲げて叫び、「乾杯!!」と辺り至る所で声は上がり、反響し続ける。

グラス同士が触れる音が響き、「さあ!」とぼくのコップは何度も揺らされた。


すると突如として大雨。


劈くような暴風雨でスコールのような滝の雨。

それは日光に照らされ、雨水はどれもが赤、青、黄、緑、紫色に輝き、地上への流れ星を思わせた。


「綺麗だなあ…」


思わず呟くと、もう辺りは暗くなり夜。

気づけば誰とて居ない。

酔っ払ったのだろうか?

雨はすっかり上がり、夜空には燦々と星が輝き、世界を照らす夜の王にはふたつの大目玉。


「やあおつかれさま」


その月が話しかけてくる。


「うわっ!」

慄いていると、月は一つ目になったかと思うと次に髭を生やし、口を開いては何百という細かい歯を見せながら声を上げ慇懃(いんぎん)に笑う。

「あそこにも化け物が…」

ぼくはそこで気を失った。


「…夫ですか?…丈夫ですか?…大丈夫ですか?」

声が聞こえ始め、

「…ん?はい?」

薄っすらと返事をする。

「はあ、よかった」

焦点が定まり眼前にはカヌレさんの顔。

「貴方様がこれほど酒に弱いとは思いませんでしたよ!」

「…では、ぼくは?」

「ええ。いっぱい飲んで、ひっくり返ってしまっていましたよ」

「…それは恥ずかしい」

ははははは、と周りの人たちが豪快に笑う。


「人間らしくて良いじゃないですか!それこそ、化け物ハンターとしての、人間らしさですよ!」


大いに笑う周りの人々と、カヌレさんの言葉によって、

ぼくは幾分も救われた気がして、はははは、と誤魔化すように笑う。

すると英雄としての気分が高揚しては、空の全体が虹のように輝き、

周りをすべて包み込む。

その瞬間、ぼくはシャボン玉の中に居た。



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