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壁際に目を向けると、何かが動いていた。
寝子だった。
寝子は白馬のような麒麟にまたがり、切れない鋏を手に持って、
頭部に生える塔のような一角に向けてカチャカチャと動かし続けていた。
ふと背中に視線を感じて振り返る。
すると、前方に、人魂のようなものがぼんやり浮かんでいた。
それは粘土のように形を変化させていき、ウソレの顔を象った。
そこには”彼 女” の〈亡 霊〉が そ こ に 居 て、
”彼 女” の 〈死〉 が こ こ に な か っ た。
思わず息を呑んだ。
「無事でよかったね」
三毛色の寝子は気づけば、足元に来ていて、流暢に喋る。
顔を仰ぐと吹き抜けは延々と続いているようであって行き止まりは見えず、
どこまでも続いているようであった。
寝子が風を起こすように上へ飛び退き、
姿を消した。
その後ろには、もう何も残っていなかった。