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自宅に着く頃には日をまたいでいたのだけど、良平はまだ起きていた。
部屋の電気もついており、ノックするとすぐに出てきては別段、眠そうにもしておらず手提げ袋を興味深そうに見つめてきた。
「これおみやげ」
「んっありが…って!?これってまさか!!」
袋に表示される柄絵、店頭の旗にもあったエンブレムを見て良平は上擦った声を出した。
「ああ、うんそうだよ。たぶんその思ったので合ってる」
「じゃあ!あの!コロニー2145の!!?」
「そうだよ」
「カレーパンだああ!!」
「そこまで喜んでくれるなら何よりだ。お土産冥利につきるよ」
「当然だろ!お前、俺がめざしてる職業、知ってるだろ?」
「えーと、カレーパン屋?」
「そこまで集中狙いはしとらんわ!」
「知ってるよ、パン屋だろ?」
「…ああ。そしてコロニー2145のパン屋って言ったら、業界内でも有名な店だ」
「そうなのか?」
「そうだ。まったく、あの店で師弟制度を決め込めたら最高なのにな!」
「頼んでやろうか?」
「ぜひとも…って、今なんていった!?!?」
「いやだから、頼んでやろうか?」
「お前、あの店のシェフ、アイガーさんと知り合いなのか?」
「あのおっさん、アイガーって言うのか」
「そんなことも…なんだ冗談か」
「いいや、あそこの店長さんとは仲良くなったんでね」
「マジか!?」
頷く。興奮して震える姿が見て取れた。
「そういえば、あの店長こまってたぞ」
「困ってた?」
「うん、まあ正確に言えば、鬱憤が溜まっているというか…」
「どうして?」
「あのコロニーに行ったことは?」
良平は首を横に振って「ないが…それがどうした?」
「あそこって、国営放送があるんだ」
「国営放送?ふーん、変わってるな」
「で、その国営放送なんだが…有料なんだそうだ」
「有料?それもまた随分変わってるな。でもそれがどうした?有料でいやなら、別に見なければいいじゃないか?」
そこで店長の気持ちが分かって憑依したように顔がニヤけて、そのキョトン顔に言ってやった。
「その放送な、見ても見なくても有料なんだぜ!」
「なっ!?」
良平もさすがに驚いた表情を示し、期待通りの反応に俺もまた猫のごとく喉を鳴らしそうになる。
「それも結構な金額をだ。拒否権はない」
「…狂ってる」
「だろ?店長が憤っている理由もよくわかるってもんだ」
「で?」
「うん?」
「何が言いたいんだ?」
「もうわかるだろ」
ぼくがおちょくるように言うと、良平は頷きながら目をそらす。
「…いいアイデアでもあるのか?」
「まあね」
帰りのバス内は暇だったから、実際にそのことばかりを考えていたのだ。
「じゃあその有料放送をどうにかできると?」
「たぶん。でも、そのためには良平の協力が必要になるけど」
「いいぜもちろん。それで気に入ってもらえて、アイガーさんの弟子になれたら万々歳だからな。でも、それで…」
「で?」
「お前のほうにはメリットあるのか?」
いつもどおり良平はフェアな関係を望み、貸し借りを嫌う。
そのため心配そうに言うので、
「ああ、まあね」とぼくは返事する。
「本当か?で、それは?」
「就職祝いの酒が飲めるってことさ」