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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
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「今度は迷子の機械猫ちゃんの捜索?犬のおまわりさんはいないんだけどねえ」

等と、アイリスが呟いていたとき、


”パン”


と小さい音が弾けるように聞こえた。


振り返ると、先ほどの浮浪者風の男たち二人の姿が目に入る。

二人は体を折り曲げ、祈りをするように地べたへ膝を着いている。

赤帽子のほうはすぐさま横半身から地面へ寝転び、体をひくつかせている。

同時に、赤い液汁がどくどくと、まるでトマトジュースをこぼしたように広がっていき、先ほどに見られた膝の震えは全身に広がっていた。

丸坊主のほうの男は、膝を地面へと垂直に着き、痙攣するように瞬きを繰り返し、口を開いて声の代わりに血を流している。


「き、きゃあああああ」

雛尖が劈くような、いっそう高い声を上げる。

「ちょ、な、なによこれは?!」

聞き慣れぬ声音をアイリスが聞かせ、

わたしは辺りの頭上を見渡すも、凶器の元らしきものは見当たらない。


しかしだ。


わたしは、その後すぐさま視線を平常の高さに戻し、二人の男へと再び向けた。


その光景に、実際、惹きこまれていた。


坊主の浮浪者は、そのあと膝を曲げたまま横に倒れ、腹部からはあられもない姿の臓器を世界へと覗かせ、

初めて垣間見る内臓に対してわたしは無粋にも鼻息を荒くしていた。

それは恐怖による高揚でなければ、純粋な興奮。

図鑑でのみ見た深海生物を、じかにして眺めている心境に似ているのだろう。

それが理由でなければ、こうした頬が緩み恍惚とした表情を装う、自分の外見における理由をどう解釈すれば良いのだろうか?

全身が火照り始め、ジメジメとした熱さを纏い始める。それは不快な汗を伴わず、背徳の念がいっそう意識を鮮明鋭利にするように、眼球に頼らずとも自分の左手薬指が人差し指より長いことを気付かせるほど五感を敏感にさせ、服にじんわりと感じてくる湿り気のある体液は、彼との深い口付けをした際の情緒を懐古させた。


悦に入るような身震いは、奥歯を若干ガタガタと音立たせ、わたしの眼をぎこちなく動かした。

独立した一固体の動物とした印象さえ抱かせる己の瞳をゆっくり左右へ誘導し、視野による情報を広げていく。

地面へ広がる赤色の広がりは、粘着性を感じさせる色合いであり、でっぷりと肥えた赤色絵の具のチューブが中央から裂け目を入れられ放置されているようだ。


視野は同僚のふたりも捉える。

”美人”と二人だったものから言われ、嬉しそうにしていたあの子は、体の向きを翻してパトカーに向き合い窓に寄りかかっている。若干膝を折らせて背丈を抑えながら、再び車内の様子を伺うようにして。

もうひとりの同僚。

恰幅のいい彼女は、右手で口を押さえて小さく喘ぎ、その指の隙間から液が漏れ出ていた。




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