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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
33/111

33


塔を目の前に構えると、腰をそらして見上げようとも天辺は見えない。

「覚悟はできてるの?」

彼女は横で余裕といった風体で、にやけている。

「…もちろん」

ぼくは道中に購入した短刀、鞘つきのナイフに視線を落としながらグリップを握る右手に力を入れた。


鍵穴に鍵を差込みドアノブを引くと、重層な扉は容易に開き、見た目に反して軽い。

それでも慎重に開かせていき、隙間から魔物が飛び出してくるのではないか?と警戒を怠ることはせず。若干の隙間を開かせてから静止していると「どうしたの?」とウソレが急かすので、魔物が出てこないことで警戒のレベルを少し下げては、中を覗き込んだ。


…何もいない。

想定外だったのは、広場のように開けた空間であったこと。

つんつん、と背中を指で押されてはようやく足を進めて内部に入る。

内観は真っ白。

あたり一面、真っ白で、区切りを見せぬ純白具合。

歩けばリノリウムのような足音を響かせ、上は吹き抜けになっており、はるか彼方にまで。

左右の壁がパースペクティブな区切りを見せたのは、保護色ながらも銅像が飾られているからであり、目を凝らしてようやく気がついた。それらは壁際に沿って並べて設置してあり、どの像も成人の男性をかたどり筋骨隆々で、どこかギリシャ彫刻に似ている。

しかしどの男性像も、性器の部分は欠損していた。


前方へと再び目を凝らせば、先の壁には四角形の区切り跡が見え、足音を鳴らして近づいていくと、

四角囲い線の中央には縦線があり、ドアなのか?と推測。

思わず唾を飲み込み覚悟に意気込んで一歩ずつ慎重に、

コツ、コツ、と足音を響かせながら向かえば、

ドアは眼前に立ち止まると自動で左右に開く。

「自動ドア!?」

思わず声を漏らしてしまったが、それでもドアの先から飛び出してくる者はいなかった。



一歩、進み足を踏み入れると、全体は白を貴重とし、すべてを白が包み込んでいるような印象。顔を見上げても目に入るのは、青空ではなく白空。

真っ白な床の左右の先には何かの商店のような店が軒並みあり、一見してまるで商店街。

しかしどの店も独立しており、各店は白い建屋で成り立ち、自動ドアらしき区切り線を何処も前方に供えている。この空間自体、ずいぶんと奥行きがあって、それは外観から察するに理不尽なほど。


「これはまあなんと…驚いたわね」

横でウソレが呟き、ぼくは言葉を失い呆然としていた。

「どこか入ってみましょうよ!」

「あ、まてよ!」

構わず彼女は最寄の店へと足を伸ばして前方の白壁に向き合えば、四角線は中央真っ二つに割れ扉が開く。

ウソレはまったく躊躇せずにそのまま中に入り、すると遠巻きに「いらっしゃいませ」との声が聞こえてくきた。

ぼくもあわてて追いかけ入店すると、目の前、すぐにレジのカウンターが目に入り、視線を横にそらせば商品のならぶ棚の並列。内観はコンビニエンスストアに似ている。

むしろそのままだ。


「どういうことだ…これは?」

「いらっしゃいませ」

声が聞こえて振り向けば、そこにはレジのカウンター先。頭をこちらに下げる面影。それから顔を上げるのは、人間ではない。

「う、牛?」

それは白黒色をまとった雌牛で、流暢に言葉を喋りそして直立しており前足は器用に小銭をつかみ、レジスター内の金銭をいじっている。

奥に進むと、ウソレがお菓子の並ぶ棚の前に居り、そこからレジの牛を眺めていて、ぼくが来たことに気づくと視線をよこして身を寄せ「あはははは、あれ、面白い」と声量を若干控えながらも、こっそりレジのほうを指差しながら子供のような声を出す。

「で、出よう!」

彼女の腕をつかんで自動ドアを向けると後方から「ありがとうございました」と人の声であると同時に牛の声。

店から離れると、ようやく足を止め、その場にとどまった。既に動悸が激しく、大きく動いてはいないが息切れ具合は想像以上。しんどく立っているのもやっとで、呼吸を整えようと膝に手をつき体を折った姿で呼吸を繰り返す。

体もアレルギーのように痒い。


「あっちも行ってみようよ!」

そんなぼくに構わず、ウソレは見た目に反して子供のようにはしゃいでおり、あちらこちらへと勝手に向かい始める。

「待てってば!落ち着けって!」

体を起こしてなんとか追いつけば、今度、入って行ったその店は服屋。

先ず目につくのは、店内の壁は赤で統一され、並ぶ各種の服の群れ。

視線をさまよわせて彼女を探すと、屈強な体格をした後姿が目に入り、こちらの視線に気づいたように振り向いた。目が合う。

それは赤黒い肌をした、角を一本生やした鬼。

「いらっしゃいませ」

その鬼はぼくへ言う。心なしか低くこもった声は威嚇に思え、長身で筋肉質な姿に気圧されそうになる。

しかし向こうから手出しをしてくるような殺伐さはなく、敵意はない様子。


視線をそらした先には彼女がいた。

ずかずかと進んで横に行けば、鼻歌と共に服を眺めていた。

こちらに気づくと、あっ!という、悪びれるどころか寧ろ嬉々する表情であり、服のひとつを手に取ると体に照らし合わせて「ねえ、どう?」なんて訊いてくる。

「そんなことより…なあ、魔物、だよなあれ」

ウソレの耳元でひっそり訊く。

すると彼女は「そんなこと?」と不機嫌そうな声のあと、少し顔をそらして「そうね、きっと」と返事する。

「そうねって、ずいぶんと暢気だな?」

「あら?前に言わなかった?」

「なにをだよ?」

「魔物だって、こちらから手を出さなければ、何もしてこないわよ」

「そうか?」

「そうよ。だって」

そうして今度、流し目に鬼を眺め「襲っては来ないでしょ?」

「それはそうだが、もしもってこともあるだろ。‥にしてもだ、ここはいったいどういうことだよ?!」

「お店なんじゃない?」

「お店じゃないって、お前…ぼくが言いのはだな…」


「何かお探しで?」

気づけば真後ろに鬼が立って居り、低くこもった声を聞かせてくる。

ひぃぃ、と若干の悲観めいた声を漏らしそうになり、実際、少し出ていたと思う。

「ううん、いや、なんでもないです…」

「そうですか」

「え、ええ大丈夫ですから、どうも」

「わかりました」

そう言い、鬼は翻して離れていく。


「ビビり過ぎでしょ」

横で彼女はそういって頬を緩ませ、「仕方ないだろ!」と反論するも、無意味であった。

「ね?無害でしょ?」

得意げな表情を示すウソレ。

「…まあ一応はそうみたいだな。でもまだ分からない。油断は禁物だ!」

「まったく、あなたと言う人は…」

「ん?どうした?」

「いいえ別に。ねえそれより」

唇をぼくの耳に近づけてくる。


「本当に退治をするの?」


「…ああ、するとも。そのために来たんじゃないか!」

「でも危害はないようだけど」

「今だけだ。きっと。そしてこの塔の外に出たら、それこそ大変なことになる!」

「大変って、どんなこと?」

「それはもちろん、ひとさらいや虐殺、とかなんかさ」

ふふ、と彼女は笑って、「それって、あなたが今から彼らにやろうとしていることじゃなくて?」

「う、そ、そんなことない、そんなわけあるか!ぼくは町の人を守るためにやるんだ!ぜんぜん違うよ!」

「…そう。まあ私はあなたの指示に従うわ」

「ありがとう」

「かわいい人ね」

「何か言った?」

「いいえ別に。それでいつやるの?」

「合図する。その前に、もう少し様子を見て回ろう」

「いいわ。なんだか、とっても楽しそうだし」

彼女には危機感がないのか?

追求したい心境はすぐさま矛先を変え、詮索・調査という行動・形になって表れた。



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