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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
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彼女、ウソレとは次の町であった女の子だ。

ギルド的な町役場を探していたのは仲間を求めてのことで、「それなら、あそこの飯屋に行けばいい!」とアドバイスをくれた出店の商人に感謝をして向うと、そのレストランは雑多に入り組んでテーブル席はおおよそが埋っており夕方前から酒盛りをしている屈強な男たちの姿が目に入った。

座る場所を探すように慎重に一歩ずつ、それでいて関心を引かないように音を立てぬよう気をつけて進めば、はなからぼくのことなど眼中にない様子で、各テーブルからは「がはははは!」と低い笑い声が飛び交っている。


とにかく腹も減っていたので、カウンター席で何かを食べてから店内において仲間になりそうな人物を探そう。そう思いまずカウンター席へと腰を下ろし、両隣は空いている。それで横に目を向ければ、このカウンター席の端にも一人、こじんまりと飯を食べている人物が。

目を凝らすとマントのようなものを纏った人、と言うよりは子供。もしくは少女であり、脚は椅子から宙ぶらりんとなってスイングし、体格からしてもまだ子供に見えた。

どうしてこんな騒がしいところに子供が?

不自然な事態に興味を引かれたのは確かだった。


「何にします?」

不意に声をかけられハッとし前に向き直れば店長らしきフライパンを持った髭のたくましい男が立っており、大柄な体格に似合わずエプロンを前掛けのように着けている。

「何か適当に食うものをくれ」

「了解しました」

仏頂面の男は言い、背を向けて行こうとするので「ちょっと!」と呼び止める。

面倒くさそうに振り返ると手招きし、その顔に近づき「あそこの端に居る少女は?」と耳元に声を潜めて訊ねた。


男は知った風に「ああ」と言って頷き、

「魔法使い、らしいですぜ」

はあ、まったく、と言わんばかりの態度と表情。髭からはみ出して見える湾曲した唇、左右に開いて見せる手、それらは困惑と小ばかにしている心情を思わせた。

「なんでも魔女の末裔とか」

「魔女!?」

「まあ子供の戯言でしょうな。まさかお客さん、本気に?」

「まさか」

…そう言い誤魔化したが、実際として真逆の心情。穏やかでない。

本当に?といったことが頭の中では渦巻き、再び気づかれぬよう目をひっそり向けると、

少女はちびちびと何かを飲んでいるようであった。

白い液体であり、牛乳?であるように思われる。


「はいよ!おまち!」

と男が皿を持って奥のほうから闊歩してくるときには既に、ぼくは自分の好奇心を押さえられず既にコミュニケーションをとって数分は経っていた。



「ねえきみ、魔女って本当かい?」

そのすぐあと、ぼくは席を立って少女に話しかけていた。

女の子は右手につかむコップを離し、音も立てずにテーブルへ置くと、ゆっくり首を動かしこちらに顔を向けた。

顔立ちから抱かせる印象も変わらず同様。目立ちのはっきりした顔立ちながらも、目の大きさが顔の総面積に対しての比率として幼さを感じさせ、頬にあるそばかすは妙に赤ずんで見えた。

「何?」

少女は恣意的な低い声音を聞かせ、

警戒心を分かり易く示した。

「だから魔女って本当?」

「本当だったら、なんだっていうの?」

その声には若干の憤りが感じられ、言葉尻のイントネーションは上擦っていた。

「一緒に冒険へ出ないかい?」

と気づけば意識に先走って訊ねていた。

自分で言っておきながら、その後すぐにハッとしたほどだ。

しかし予想に反し、その子は「ええいいわよ」とすぐさま了承。

実にあっけない。しかし「複雑な気分だ」とすれば的確かもしれないが、実際、自分の顔は「そうか!」と笑っていたのだから己が分からなくなる。

「飯、冷めちまうよ!」

そう言われ振り返って元の席の前には強面の男が片手で皿を持っており、

「こっちによこしてくれ」と言い皿を回してもらう。


「ねえどうして私なの?」

少女は隣でがっつく最中のぼくに声をかけてくるので、頬張った分を飲み込むと、詰まりそうになるが何とか飲み込んでから「なんとなく」と喉を鳴らしてから声を出した。

「なんとなく?」

彼女は目を見開き、それからくくくと身体を少し折ってお腹に手を当てて笑い、反り返ってから「なにそれ」と言って今度は口を大きく開けて笑った。

赤を基調とした服から覗く細い手足は非戦力的ながらも、翡翠色の瞳だけは存在を誇示するように炎々としている。それから右手にはめたリングを見せ付けるように右腕を上げ、

「そういえば、あなたは誰?」

と身を寄せて訊いてくる。

ぼくは自己紹介をしようと口を開くも、その瞬間、ちょうどぶんぶんと飛び交っていた虫の一匹が口に入り込んできて吐きそうな表情に。口を閉じて、それから息苦しくなる。冷や汗が動揺に寄り添い噴出して、

はっ!と詰まらせた息を勢いよく吐き出し、それから面と向き合って声を出そうと言葉を口にする。


自己紹介を済ませると、彼女の笑みは消えており「わたしはウソレっていうの。よろしくね」と初めて、年相応の表情を見せつけながら、握手を求めるよう手を差し出しながら少女は言った。


自称”魔女”のウソレはホットパンツから細身の脚を覗かせ、そして彼女は魔獣を飼っていた。

無論それも「自称魔獣」であって、その魔獣とやらはウソレの肩に在住しており、

「それが?」と訊けば「ええそうよ!」と胸を張って言う。

ぼくからすればそれはモフモフした毛玉のようなリスにしか見えないのだけど。



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