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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
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何とか無事に

村へと来た化け物を退治すると、唖然として静まり返った後、村の間中から歓声が沸きあがる。

彼らは何処かに隠れて様子を見ていたらしく、化け物が見えなくなると大勢が駆け寄ってきた。それからすぐに賞賛の言葉を方々からくれて、途端に英雄扱い。困惑したのも無理はなかった。

けれど誰しもが目に涙を溜めてみせ「ありがとうございます!」

と各人から感謝させるのは悪い気分じゃない。

そして震える自分の手を見ると、そこには確かに自分の右手があって、そして脈打つように赤めいて興奮しているのが分かりこれが現実であるのだと知らしめた。

同時に、ホッとしてようやく気張っていた心が緩み、体中の力が抜けた気がした。

目がチカチカして感じたが、不思議と疲労感はない。高揚感が未だあり、自分が化け物を退治したという興奮が自分を崇めるように。


ぼくは旅に出ることにした。


落ち着いたその後に、どうやら話を聞くと、この世界には”魔王”なる、なんとまあ安直な存在ながらも、そうした者が支配するゆえに世界は不安定で、おかげで化け物が各村には出現し、被害をもたらしているのだと言う。

「じゃあそれをぼくが!」

討伐に名を挙げたわけだ。

どうしてか?


”今回の怪物退治で、自信がついたから”


それ以外の理由を述べれば嘘になる。

なぜかこの世界に転生したぼくは、超人的な力を身につけたらしく、

跳躍すれば容易に数メートルも飛ぶことができ、殴れば十万馬力。

…とまではいかないが、少なくとも随分と腕力があるらしい。

なんたって、大柄の化け物ひとりを、ボウルを投げるように振りかぶって殴り一撃のみ。

数メートルは吹き飛ばしたのだから。

化け物はそれで倒れて起き上がらず。絶命した様子で白目になり口から血を漏らしていた。

その当時こそ、自分のこうした力に唖然としたものの、自分が殴ったのだという実感は右手の甲に染み付くように存在して沸き立つ歓声に事態を把握し、気づけばにやついた。


どうやらぼくはここでは、無敵みたいだ。

そんな予感がしていた。

そのとおりだったのだ。


翌日には村を出ることにした。


それは最寄の村が近くにあると知ったからであり、そこはこの村よりも一回り大きいらしく栄えているとの事。この世界についてより知りたいと思ったぼくは、前の世界では考えられないほど行動的になったわけだ。最後の夜、またも泊めてくれることになったエリスとエマリスのもとでは、この姉妹はまた親切にしてくれ、夕食後には暫しの談笑。そのあとに就寝。けれど寝付けなくてこっそり外に出て夜空を眺めていると、「眠れないんですか?」とエマリスが横に来た。

彼女はゆったりとした青のローブを着ており、横に座ると素肌が腿付近までめくれて見えた。

白い手袋して膝を抱えるようにして座り、

それからぼくの手を両手で取って握り「…ほんとうにありがとうございました」と身をさらに寄せてくる。頬を伝わる涙に動揺しながらも、そっと抱きしめた。

数分、数十分…。

辺りがとても静かで、閑散としており、

音が消えたような世界は意識が視覚に傾倒し良識が倒錯しそうですらあった。


この村での最後の夜は、とても印象深いものになった。


翌日の早朝。

二人がまだ眠る中、ぼくは起こさないよう家を出るとそのまま村の外に向った。

晴天であれば旅立ちとしては幸先が良いが、実際には雲が全面を多い、真っ白であり雲に包まれて感じたほどだ。

それでも構わず歩き始める。






その怪物は猪を擬人化したような見た目をしており、目立つ豚鼻に眼光するどく、

しかしメスのようでありぼろきれのような衣服を着ながらも豊潤な胸元が見えた。

真っ赤な手袋を両手にはめており、鋸のような刃物を武器として持っている。

ぼくが注意をひきつけている間に、魔法を使えるとの事で彼女はなにやら詠唱をしているが、なんと言っているかは聞き取れない。

聞けたところでどうせ意味を成さないであろうから念仏のごとく聞き流し、

されど眼前にはその効果が顕著のようであって、怪物は地面にひれ伏した。

まるで土下座するように。


「すごいな!」

そうして声をかけると「えへへ」と笑い。重力をかける魔法だと話してくれた。

重くなって動けなくなるんですよ。

「へえ、どんな具合に?」

「試してみます?」

え?

と返す間にはこちらに手をがさして目をつぶり、ぼそぼそと細かくつぶやいた。

う!!

とたん、身体の全体が重くなり、まるで何十キロもの荷物を急背負わされたみたいだ。

う、動けない…

スッと重み姿を消し、「どうでした?」と笑っている。

「思った以上にきついな」

「モンスターにかけたのは、その数倍ですよ」

「マジか!?」

「ええ」

笑顔に宿るその凶暴さに、ぼくは密かに慄いた。

そして未だ土下座の姿のままのモンスターの横を同道と横切って通り過ぎ、「あいつ、いつまであの状態なんだ?」

と訊ねる。

「さあ?」

と魔女。

「さあって…」

「魔法の効力がいつまでは、私にもよくわかんないから」

あっけんからで無邪気にそう言い、ぼくはそっと振り向いて未だ苦しそうに這いつくばるモンスターを一瞥する。

「なんだか可愛そう…」

思わずつぶやいた。




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