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向かいの先は小さなシャンデリアを軒前に照らしたような建屋で、飲食店であるのは匂いが確固として示していた。
「さあ行きましょう」
回りこんで駐車場に車を停め、意気揚々とする彼女に「公用車を使って大丈夫なの?」と訊ねる。
アイリスは微笑んで「いいのよ。どうせ私の車じゃないわ」
「そうなの?」
「じゃあ逆に訊くけど、他人から見てどうして私達がこの車の搭乗者と思う?」
「それは…」
以前は制服なる物があったのよ、と言いかけた口を咎め、「…そうね」とだけ口にすれば、彼女の琴線に触れる言葉はその意味を成し「わたしがおごってあげるから」との言葉を引き出したのだった。
店内に入ると広けた空間と成っており、丸テーブルに椅子が備わり各所にあって五組ほど。
手前から三番目のテーブルにアイリスが腰掛け、向かい合うよう席につくとすぐさま料理が運ばれて来る。
「…なるほどね」
わたしは思わず独り言を溢す。
「ここの料理は絶品よ!」
「へえ」
目の前には直径十五センチほどある縁の彩り鮮やかな皿が計四つ置かれ、どれも馴染みのない料理ばかりが乗せられている。
「ここは何系のお店なの?」
わたしの質問に意表を疲れた如く目をぱちくりさせながら「何系?」と鸚鵡返し。
「料理の事よ。中華?その広東系とか?」
「ああ、そういう意味。そういう意味で言うなら…コロニー2145系かしら」
「え!?」
「ここ独自の料理ってことよ」
彼女は悪戯っぽく言い、わたしはそれ以上、追求を止めた。
となりのテーブルに目を向ければ、一人の男性が黙々と陶製の匙で飯を掻き込んでおり、緩まぬ勢いが美味を思わせ、時折に見せる恍惚な表情さえも料理の一部として包括されているようであった。
「さあ早く食べましょう!」
声を掛けられ視線を戻すと、アイリスが皿の一つから料理一つを手でつかみ、さっと口に運んだ。
それに習って、わたしも手づかみでさっと持ち上げて頬張った。途端、肉汁が溢れて美味しいけれど目を凝らしてみれば目の前の彼女はポカンとする。
「何やってるの?」
咎めるように窄めた目は威嚇するようであり、彼女の体型と反比例するように細まった。
「なにって、食べただけよ?」
「ふう」彼女は溜め息を目で吐くように視線をテーブルへ擡げてから、こちらに目を向けそこに宿るは慈しみ染みた呆れであって、公共の場で走る子供に向けるそれに似ていた。
「いい?食べるときには箸を使いなさい」
たっぷり時間を労して昼食を終えると車に戻り、瞼を重そうにしながらアイリスは電源を入れ、「一旦、戻るわよ」と乗り気でない様子で言う。
「報告が随分と遅くなりそうね」
「まだよ」
彼女の言葉に視線で応えると、目を合わせて言葉を続けてきた。
「まだ戻らないわよ。戻るのは現場のほう」
「…なるほど」
「もう流石に色々と変わっているでしょうから」
パネルにタッチ入力しながら言い、わたしは横でその様子をただ黙って見守り、パトカーは騒音を発さずに走り出した。会話は途切れて窓の外に目を向ける。前方、一人の男の姿。
こちらに体を向け立っており、右手は水平に前に突き出し左手は四角形を見せ付けるように持っている。
「なにあれ?」
「さあ?仕事でもしているんじゃない?」
「仕事?」
安易に訊ねかえすとアイリスは瞼を一瞬大きく上げて「…まあ、そうね」と言った。




