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現場に着く前にはパトカーを止める羽目になり、人を轢いてまで急ぐ必要もなければ、徒歩も厭わないので車から降りることに。
「予想以上の人気っぷりね!」
目的の百メートルほど手前でパトカーを停め、先を眺めながらアイリスが爽快に言う。確かに前方は予想以上の野次馬。殺到しており、三十人は優に越えて見え、人の背が壁となって場が見えないほど。顔を見上げて時計台を眺めれば、そこに先ほどと変化はなく、壁時計のところに犯人が居るわけでもない。
これじゃあ駄目ね。
小さく呟くのを聞いてからともに歩み始めて現場へ近づいていく。
「さっさと様子を確認して帰りましょ」
「でも、直ぐ帰ったって…」
やることないんじゃない?とする
わたしの言葉を手のひら差して止めて「ふふ」と鼻で笑い、
「いい?ホームが一つとは限らないものよ」
はっ?と反応してしまい「鈍い子ね」と言った具合に手のひらを天秤状に広げて、それから大きく頷く。
「まあさっさと確認しましょう」
そう言って歩みを再開させるので、わたしも追随する。
「ねえどうなの!?」
人混みの最中を少々進めると大声で先に聞こえるようにアイリスが声を出し、返事は返ってこない。野次馬は全員が興味がないようにわたしたちのほうへは向かず、振り返らない。
老若男女、服装からして若い男が多いように見えたが、顔はよく見えないので定かでない。
「もう!無視するなんて」
憤っているアイリスを横目に現場の様子を伺おうと背伸びするもまったく見えない。
「どうする?」
「どうするもこうするも…掻き分けるしかないでしょ!」
そう言って恰幅ある体から腕を前に伸ばして平泳ぎのように腕を動かし、アイリスは前に進む行く。その後ろに引っ付き進むわたし。
ようやく先の光景が開けてくると、そこには現場検証に特殊班が来ており…のはずだった。
誰も居らず、しかしテープは張り巡らされ、一応に立ち入り禁止との体制は保っていたが、禁制が著しいように誰も居ない。
「おやおや、張り紙の注意を謙虚にも自ら従ったって言うの!?いい冗談ね」
呆れ顔に続いて顔を見上げ「上にも誰も居ないようだし」と呟く。
「どうしたのかしら?」
「さあ?私に訊かれたって、知るわけないわ」
「どうしよう?」
「うーん、そうね…」
アイリスは犯人が消えた現場と、時計版を交互に見ては頷く。
「…よし、確認終了!異常なし!現時点ではね」
そう言って踵を返し、「さあ行きましょう」
「もういいの?」
「ここに残ってたって、やることないでしょ?それとも、再び犯人が現れるのを祈るように待つ?」
「それもいいかも」
「冗談じゃないわ!そのうち空腹で死んじゃうわよ」
「えっ?」
そうして時計の針に目を向ければ十三時を過ぎようとしていた。
「さあ戻って飯に行くわよ」
促がされて振り返り、わたしたちはパトカーへ向けて歩き出す。
「すんなり戻れたわね」
その言葉の意味をかみ締めようと、がらんとした辺りを見返す。
「…そうね?」
そう応えてパトカーに戻り、自動運転で動き始める先の目的地は露知らず。
「何か食べたいものある?」
「別に何でも」
「それは良かったわ!もうセットしてあるから」
それが目的地なのか、はたまたメニューなのかは、知る由もなかった。




