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ルームシェアしている良平は、ぼくよりひとつ年上で、しかし年長さを見せ付ける傲慢さは彼にない。
だからぼくたちは同級生といって過言でない間柄であり、おそらくぼくの想像通りであるとは思う。
「くそっ!」
届いた手紙(本物のレター!)を彼は丸めて壁に投げつけ、鼻で大きくため息をついた。
「また駄目だった?」
「ああ!何でだよ!くそ!」
彼はいま、ちょうど就職活動中。
進学するつもりは毛頭なく、あるひとつの職業に絞って就職活動を行っていた。
「でもどうしてひとつの職業にこだわるんだ?良平なら他を探せばいくらでも働き口は見つかると思うけど」
「いいやそれじゃあ駄目だ!」
「どうして?」
「お前、今俺のことを頑固者だと思ったろ?」
「若干、いやウソだごめん。馬鹿みたいな頑固者だと思ったよ実際」
するとため息をついて見せて、視線を壁に流しながら「なあ、どうして他のやつはその、やりたくもない仕事に就けるんだろうな?」
「それは…仕事だからじゃないのか?」
「そうだ。もちろんそうだ。だがな、じゃあもし自分がやりたい仕事と、やりくない仕事、二つが手元にあったら、どっちを選ぶ?」
「それをわざわざ訊くかね」
「ああ訊くよ。訊くとも。どっちだ?」
「それはもちろん…」
天邪鬼にやりくないほうの仕事といっても、ただのマゾと思われるだけであるのは容易にわかって、だからこう言った。
「仕事をしないね」
なっ!と驚いたように口を開け、じっと見つめ返してくる。若干の空白の後、それから笑い出した。
「それもありだな」
「ごめん。やりたいほうの仕事だよ。でもそれって当然であって、自分のやりたいことで金が稼げるかどうかは別の問題だろ?」
「それはそうだ。じゃあ訊くが…」
「またか」
「いいから答えろよ。お前にもし好きなやつがいたとする」
「ほう」
「それでだ。ほんとうに、そいつのことが好きで、好きで一途に思っていたとする。でだ、お前はその相手に一度嫌いな素振りを見せられたからって、簡単に諦めるか?」
「それはまあ…諦めないかも」
「だろ!?仕事も同じさ。大好きな仕事がある。それに就こうとめざす。一度ぐらい断られたからって、その仕事を諦めるか?好きなやつに対する思いと一緒さ。諦めないで、最後まで思いを通すだけだ。俺からしてみれば他のやつのほうが不思議だよ。好きなやつを自分から諦めるようなもんだからな。それで違う相手で妥協して延々と愚痴っぽく働く…な、そうだろ!俺の何処かおかしい?」
「随分と一途だねえ」
「それほど憧れてるんだよ。俺の夢だからな」
一応、追い続けてる限りは夢であって、そして諦めたことにならねえしよ。良平は短く切りそろえた坊主頭に手を当てながらそう言い笑った。
「まあそれはご大層なことで。じゃあご武運でもお祈りしておくよ」
「学生は気楽なこった」
「どうも」
そこでちょうど携帯端末が目覚ましよろしく電子音を騒がしく喚き出すで対処をすると、別の声が聞こえてきたので対応をする。
「ねえ今、暇?」
声ですぐに気づく。彼女だ。
「まあね」
「じゃあ出かけましょうよ」
「いいよ。どこに?」
一瞬の間。次に微笑する声。
「コロニー2145」
ぼくは時計に目をやり、返事した。
「それは随分と遠い遠足で」