13
パトカーで迎えに来たアイリスは黒人で恰幅のよい女性で、私より五つほど年上だった。
彼女は自己紹介と握手の後、横で寝転ぶ罪人の首に安易麻酔の注射を打ち込み、トランクに投げ入れる。それから助手席へと目くばせするので、従う他にない。
「ああ、それは”キャットウルフ”よ」
今しがたのことを話すと彼女は平然とそう言い、ハンドルに手をやり手動でパトカーを運転し始めた。そこへ好奇心を刺激される前に「キャットウルフ!?」と私は上ずった声を出してしまう。
「そう。神出鬼没でヒーロー気取りのイカれた野郎よ」と彼女は言って右手で自分のドレットヘアを触り、舌打ちするように顔をしかめた。
「イカれた…って、でも彼は助けてくれたわ」
「いいや違うのよ、あいつはただ悪党を消そうとしただけ。あんたなんて眼中にないのよ」
「それでも…」
私が反論しかけるとアイリスはすぼめた左目で私を戒め「いい!?署に着いたらその名前はタブーよ!みんなピリピリしてるんだから」
苛立ちは声音からも十分に伝わり、「…どうして?」と訊ねるのが無粋と分かりつつ口から滑り出ていた。
「わかるでしょ!?そんなイカれた野郎が守ってる街に、私たちのプライドが守られて?まったくの逆よ、やんなるわ!」
窓を少し開けると、唾をはき捨て「くそったれがひとりまた、増えただけなのよ」
わたしは目の前の光景と先ほどの現状を想起し、大半を悟った。
それからパトカーが署に着くまでは互いに言葉を発せず。
ただ一度だけ「カレーパン食べた?」とだけ訊かれ「どうしてそれが?」と問い返すと彼女は得意げに笑って「私も好きなのよ」と言った。少し打ち解けた雰囲気に安堵し気分をもたげると「でもあの…キャットウルフ?だったかしら?」
「ええそうよ」
「けれどあの顔はどう見たって豹みたいだったけど?」
「そう?」
「ええ確かにそうだった」
力説するように言ってもアイリスは苦笑を呈するばかりで「私に言われたって知らないわよ。なに、同じ猫科として”レイシストじゃない”とでも言うんじゃない?」
彼女のユーモア酔いしてる間に、目的地は見えてきた。
「ずいぶんと中世的な外見ね」
端末にインストールしておいたガイドどおりの外見。バロック建築のような見た目の警察署は、遠目から見ても一目で分かる。
「ええ。趣味なのよ」
「誰の?」追究を促す雰囲気に嫌気を感じず、素直に訊ねると「誰だと思う?」とまさかの質問返し。
「さあ?見当もつかないけど」
アイリスは鼻で笑って呟くように言う。
「元所長。犯罪者のね」




