『権利と自由とカレーパン』
普通の女の子は好きじゃない。
これだけ言うと誤謬を与えかねないので付け加えるけれど、決して美人のみを好みといったわけじゃない。
俗な女の子が好みでない。
そう言いたいのだ。
だから気になる女の子に出くわすと、こう訊ねることにしている。
「カレーって好きかい?」
そうした問いに好意的に答えてくれたのが、来須愛莉だった。
彼女は笑顔で「いいえ」と言った。
ぼくはその答えと、添える笑顔に魅入られたのだ。
「カレーパンが好きなのよ」
彼女は次にそう言った。
ぼくはますます興味を注がれ、えくぼに潜む魔力に惹かれるように口走った。
「カレーが好きじゃないのに?」
そう問うと彼女は戸惑ったような表情を見せ、
「そう言われればそうね…」
と困ったように言った。
「それっておかしくない?」
ただの揚げパン好きなのかと思いきやそうでもなく、
「ドーナツは微妙よ」
と頬を和らげた表情で彼女は言う。
「進くんって、目が青いんだね」
「うん?ああ、これ。生まれつきなんだ」
ぼくは自分の目を指差しながら喋るが、
彼女が下の名前で呼んだことに対して、微かに興奮していた。
顔の輪郭を覆うような黒髪に、大きな黒い瞳。
小柄な体格もあわせて、彼女は実に純粋な日本人らしかった。
「それで…結局はどっち?」
「どっちって?」
じっと見つめられて苦し紛れに投げた質問は質問となって我に返り、
「いや、カレーが好きなのかどうかって」
「うん、わたしはカレーって嫌いよ」
「カレーパンは好きなのに?」
「カレーとカレーパンは違うでしょ?」
「いや、一緒じゃないの?」
「じゃあ進くんは「目玉焼きは嫌いだけど、卵焼きは好き」って言うのはおかしいって言う?」
「いやそれは全然別の料理だと思うけど」
「でも同じ卵のみの料理でしょ?」
「味付けが違うよ。それに食感も…あ」
ぼくは勝手に気づいて言葉を加える。
「…もしかして食感の話?」
「そうかも」
「変わってるね」
ぼくは自分から出た言葉に少し悔しさを覚えつつ、しかし「そう?」と小ずるく笑うその笑顔に、どうやら悪い気分は抱かない。
それが最初に出会ったときであり、ちょうど僕が十九歳になる年。
西暦で言えば、2150年のこと。
つまり、ぼくが猫力学を発表する、ちょうど十三年前のことになるわけだ。




