黒い悪意
情報屋に言われれるまま紺色の水晶石を探しに来たアレイシャ達。
その洞窟は川に通じていて濾過すれば飲水にもなる。
だがそれは毒を流されれば一気に大量虐殺を可能にする事も意味する。
このご時世にそんな悪意を見せられるのだろうか。
「ここね、紺色の水晶石があるのって」
「紺色の水晶石はただでさえ貴重なのに、このご時世にあるのかしら」
「鉱山などは閉鎖されるぐらいですから、採れるとは思いますよ」
そうして水晶石を探し始める。
とはいえアナスティアの言う通りそう簡単には出てこない。
「あるのは精々純度の高い普通の水晶ぐらいね」
「これでも価値はそれなりに高いんですけど」
「今回の目的は紺色の水晶石だものね」
その後も水晶石を探すが、そう簡単には見つからない。
日が落ちる前には見つけたいところだ。
「待って、これ」
「紺色の水晶石…今回は運がいいとしか言えないわね」
「そうですね、運を使い切った気分です」
思ったよりも簡単に見つかってしまった。
それは幸運だったのだろう、戻ろうとしたそのときアナスティアが何かを見つける。
「これ何かしら、空き瓶?」
「このラベルは…帰るのは少し待ちます、奥に行きますよ」
「セクネス?私達も行くわよ」
セクネスのあとをついていくアレイシャ達。
するとそこには貧民と思わしき女がいた。
「貴様、こんな場所で何をしている?」
「わ、私は水を汲みに…」
挙動がおかしい。
セクネスはそれに気づいた。
「その瓶…まさか!」
「ちっ、勘のいい騎士様だね、だがもう遅い!」
その女は恐らく敵国の工作員。
そして今まさに水に毒が放たれようとした次の瞬間、銃弾が瓶を撃ち抜いた。
「なんだって!?」
「ったく、まさか工作員とはね」
後ろから声がした。
そこにはシスターが銃を構え工作員に狙いを定めていた。
「次はそのドタマに当てるわよ?」
「ひっ、たっ、助けておくれ!」
工作員はそのまま外へと逃げていった。
「あーあ、もう少し様子見てようと思ったのに」
「あなた、何者?シスター…いえ、ただのシスターではないわね」
そのシスターは呆れ顔で言う。
「話なら街で聞くわ、あの工作員は放っておいていいし」
「…よく分からないけど、とりあえず戻りましょう」
そうして街に戻り情報屋に水晶石を渡す。
「確かに、あんたの探すヒルデって奴は北の国境を越えたぜ、確かな情報だ」
「北の国境…どうもね」
「さて、次はあっちね」
そうして外に出てそのシスターに話を聞く。
「さて、あなた帝都の教会で働いてたわよね?それがなんであたし達をつけてるの?」
「少し興味があったから観察してただけよ、まさかだったけどね」
「それなら最初から声をかければいいものを」
そのシスターは見た感じは世界に信者を抱えるエメラダ教のシスターだ。
「別にいいでしょ、こそこそしてても」
「まるで隠れて何かを探ってたかのような言い分ね」
だがそのシスターは悪びれる様子もなくアレイシャ達に提案をする。
「こうなった以上はあんた達についていく、拒否権はないわよ」
「は?あなたみたいに怪しい人を抱えろとでも」
「アレイシャ、それは言い過ぎ…」
「でも一理あります、シスターにしては明らか怪しい」
だが彼女はアレイシャ達に条件を出してきた。
「私を連れていけば少なくとも国境は越えられるわ、それでどう」
「まあ確かにエメラダ教のシスターならそれぐらいは…」
「とはいえ胡散臭いですよ、信用していいんですか?」
「…好きにしなさい、ただし少しでも変な動きをしたらその場で殺すわよ」
シスターはそれで交渉成立とした。
「どうもね、私はエロイーズ、あんた達の名前はもう知ってるから」
「ええ、それで国境を越えられるのよね」
エロイーズ曰くエメラダ教の名前を利用すれば軽いそうだ。
世界情勢もあり下手な真似は出来ないそうだが。
「まあいいわ、なら明日にでも北の国境を越えるわよ」
「はいはい、任せなさい」
「…いいのかしら」
「今は信じるしかないでしょう」
そうしてエロイーズは無理矢理ついてくる事になってしまった。
とはいえ大宗教であるエメラダ教の名前を使えるのは大きい。
アレイシャ達はヒルデを追い北へと向かうのである。