久しい平地
バルギニア国内を旅するアレイシャ達。
現在は小国のエスメスに来ている。
この小国は久しぶりの平地である。
空気の薄さはなくなって多少は楽になった。
「ふぅ、この小国は今までと違って楽ね」
「ええ、空気が薄くないもの」
「久々の平地ですからね」
「でもバルギニアは国土の多くが山だからこそよね」
確かにバルギニアは山が多い。
そんな国土だからこそ発展も出来たのかもしれない。
「それにしてもこの国って涼しくない?」
「高地の多い国ですからね」
「そうね、山の上の方って冷えるものなのよ」
「そうなのね、噂には聞いてたけど本当だったの」
山の上の方は冷える。
登山家などが高い山に登る際に気をつける事の一つでもある。
山で体が冷えるのは生死に直結する。
だからこそ体を温める手段が必要になる。
「でも冬とか大変そうね」
「でしょうね、ですがそれに対応するのも現地民の工夫ですよ」
「ヒルデってなんでそんないろいろ知っているのかしら」
「分からないものですよね」
今ではエイルもすっかりついてきてしまっている。
飛行船の扉は厳重に鍵をかけているので平気だとは言うが。
「それでもこの国が今の状態を保ててるのは政治家のおかげよね」
「ですね、国によって政治の形態は異なるとはいえ」
「基本的には国王制が多いのよね、国って」
「そうよ、でも一部の国は大統領制とかの国もあるわ」
大統領制、この世界では珍しい国の形だ。
基本王制が中心のこの世界において大統領制は異質になる。
だが国によっては国王がいて、それでなおかつ大統領のいる国もあるとか。
世界の政治も様々なのである。
「んで大統領と王様ってどう違うのかしら」
「王というのは直接命令を下す者、大統領とは議会のトップで束ねる者です」
「どっちも一番偉いんだけど、命令が伝わるまでの命令系統が異なるのよね」
「つまり大統領は議会を通す事前提なんですね」
王様は国に議会などがあってもそれに直接干渉出来る。
一方の大統領は基本的に議会を通した上でその命令を執行するのだ。
「でもそれだと王様の方が素早く命令伝達出来るわよね」
「大統領の場合は議会を動かせますからね、間違った命令が止まりやすくもあります」
「そうなの?」
「そうよ、議会制だと手続きとかあるから無茶な命令を権限で止めたりね」
エロイーズは少し難しそうに考える。
なんにしても世界は広いという事か。
王制にも大統領にもいい部分はある。
ただ世界的に見ると悪政の国は王制が多いらしい。
まあ王制の割合が高いのだから当然ではあるが。
そんな世界の政治事情の話である。
「なんにしても大統領制っていう珍しい制度もあるのね」
「ええ、まあこの世界の七割は王制ですけどね」
「七割も王制なのね」
「大統領制の国はそれだけ考えてるのかもしれませんね」
とはいえ悪政の国は確かにあるものだ。
そんな国がどうやって食っているのかというのも気になる。
権力者だけが肥え太っているのか。
それとも国民もきちんと食べられているのか。
「そういえば俗に言う独裁国家でも食えるものなの?孤立してるイメージあるけど」
「それは国次第ですよとしか言えない話ですね」
「ええ、国によっては凄い豊かな独裁国家があるって聞くわよ」
「ふーん、それだけ世界は広いっていう事になるのかしら」
エイルは元軍人だからまだ分かる。
ヒルデの妙な詳しさはなんなのか。
それは過去に関係あるのだろうか。
それともメイドとしての必要スキルか。
「まあ知る方法などいくらでもあるという事です」
「そうね、本とかでそれを知る事は可能なのよ」
「でも歴史書とか当てになるもんなの?」
「それはそれですよ、歴史書だって全部真実ではありませんから」
セクネスの言う通りである。
歴史とはその歴史の中で脚色されていくものなのだから。
「さて、次の小国に行きますか」
「どこでも行けるわよ」
「なら頼むわね」
「この国も意外といい国だしもっと見たいもの」
そうして次の小国へ飛び立つ。
国の情勢も不安こそあれども安定はしている。
それでも隣国の出来事はこの国に不穏な影を落とす。