不穏な国
バルギニア国内の旅を始めたアレイシャ達。
とりあえずは隣の小国であるシルネンに来ていた。
この国は山が多い国でもある。
そんな国にもトネオの情勢は伝わっていた。
「やっぱり平和とはいかないものね」
「先日の事もあるものね」
「トネオは隣国ですからね」
「それも国民に伝わってるって事よね」
それでも今はこの国を楽しもう。
そう決めて少し散策を開始する。
「そういえばこの国ってヨーグルトとかが名物なのよね」
「そうよ、あとは煮込み料理とかね」
「せっかくですし食してみますか?」
「いいわね、旅をするならその土地の料理は鉄板よね」
そういうわけで適当な店を探す。
そして見かけた店でチーズを購入しその場で食べてみる。
「ん、これは美味しいですね」
「ええ、とてもよく乳の味が」
「本場の味って凄いのね」
「チーズ…」
エロイーズは食べ渋っている。
何か理由があるのかと訊いてみる。
「私乳製品苦手なのよ、すぐにお腹がゆるくなっちゃって」
「つまり乳製品を食べるとトイレが近いと」
「意外ね、エロイーズにも苦手なものがあったなんて」
「ええ、好き嫌いはないと思ってた」
エロイーズ曰く乳製品を食べるとお腹がゆるくなるという。
それもあってか乳製品は極力避けているらしい。
スパイとしての任務に支障が出る可能性もある以上当然だろう。
だが過去に乳製品を摂取していたのをアレイシャは覚えていた。
少し無理をしていた、という事なのか。
そういうところはスパイとしての意地なのかもしれない。
「そういえばこのチーズ牛の乳じゃないわよね」
「この国の乳製品は山羊の乳がメインなの、このチーズも山羊の乳から作ったのよ」
「山羊の乳ですか、一般的には牛ですから文化が分かりますね」
「以前行ったところも山羊の乳を使った料理とかあったものね」
そうしてチーズを完食する。
エロイーズの思わぬ苦手も分かったのだった。
「それでエロイーズは乳製品に弱いわけだけど」
「弄りのネタになりそうね」
「やめなさいっての」
「エイルさんは地味に意地悪なんですかね」
そのままシルネン内を見て回る。
国としては特に変わりはないが、トネオの情勢は伝わっていると分かる。
それもそうだ。
ちょっかいを出されていた国に対して突然爆撃に出たのだ。
それに対して驚かないわけなどない。
バルギニアとしても寝耳に水だっただろう。
「やはり情勢は隣国が一番受けるものですね」
「そうね、巻き込まれないといいけど」
「そんなの今さらな気もするけどね」
「エロイーズが言うの?」
何にしてもそれが今のバルギニア情勢である。
隣国の影響がモロに出た格好となる。
「それでどうします?隣の小国に行きますか?」
「もう少しだけ見てからにするわ」
「分かったわ、行くならいつでも行けるから」
「すまないわね」
そうしてシルネン内をもう少し見て回る。
子供達は普段通りなのだろうが、大人達には不安の色もある。
やはり不安なのは変わらないのだろう。
それが隣国の話なのだからなおさらである。
「でも国としても不安を煽るわけにはいかないのね」
「当然ですよ、国としても国民は必ず守ると言っておかないと」
「軍隊もありますしね、国や民を守るのは軍隊なんですよ」
「トネオと同じようにね」
何かあったときのための軍隊。
それは守るという事の意味を教えてくれる。
国も民もそれを守るのは軍である。
トネオでもヒルデやエイルは言っていた。
軍隊を持たないのなら国民がガチガチに武装するしかない。
相手に手を出したら怖いぞ、と思わせる事が国防なのだと。
相手を威嚇し手を出すのを躊躇わせる事。
それは立派な国防であり戦術なのだ。
「軍隊に反対しているのならそれこそ国民に武器を配る事になりますからね」
「それが国防、トネオでよく分かったわ」
「国や民を守るって大変なのね」
「そうですね、勉強になります」
そうして隣の小国へと向かう事になった。
トネオでの出来事は確実に出ている。
だがそれでも止まるわけにはいかない。
バルギニアを抜ける事を目標に進む。
国とはそうして在るべきなのだから。