憧れの対象
トネオ国内を旅するアレイシャ達。
現在は小国の一つシルティムに来ている。
今までも散々見た軍人達はここにも常駐している。
トネオ軍は何かあったときは民を守らねばならないのだ。
「ここも軍が常駐してるのね」
「ええ、まあ何かあったら民を守るのは軍ですからね」
「軍隊は国や民を守るために必要なもの、ね」
「そうなるわね、もしこの国に軍隊がなかったら今頃侵略されてるわよ」
エイルの言う事も尤もだ。
軍隊を持たないという事は武器も防具も全てを放棄する事を意味する。
「軍隊自体いいイメージがないのよね、でもそれがなかったら国はとっくにないわけよ」
「エロイーズの言い分は分からなくはないですけどね」
「でもそれって規律の乱れてる軍隊の話でしょ」
「ええ、だから軍隊って意外とストレスを発散させるシステムとかあるのよ」
規律の乱れている軍隊、それは国によっての話である。
基本的に軍隊、それに準ずる騎士団なども規律は守るべきものとして認識される。
規律を乱す者は軍隊ではやっていけない。
軍隊において上官の命令は絶対であるという事でもある。
「一応独自に動ける訓練は受けるのよね」
「ええ、私もそれは受けたけどそれは最終手段って釘を差されたわよ」
「そもそも軍隊において命令違反は重罪ですからね」
「確かに懲罰とか重い罰があるとは聞くわよね」
軍隊における命令違反はそれだけで重罪になる。
独裁国家などになるとそれだけで処刑される事すらある。
組織においては個人の意思ではなく全体主義が優先される。
命令違反がどれだけの損害を出すかという事でもある。
「でもこの国の子供達を見てると軍への憧れは強いのね」
「仮にも国や民を守る組織ですからね、ヒーローにも見えるんでしょう」
「でも子供が将来軍人になりたいって言うと少し複雑ではあるわよね」
「親からしたら子供が戦地に行くかもしれないというのは不安で当然ですよ」
それでもこの国の子供達にとって軍人はヒーローなのだ。
強い存在に憧れるのは子供ならではなのかもしれない。
「とはいえ軍人がヒーローっていうのも国の事情が垣間見えるわよね」
「そうね、人を殺す事もあるのが軍隊だもの」
「それでも国や自分達を守ってくれるからには大きく見えるんでしょうね」
「ですね、いつの世も人はヒーローに憧れるものですから」
ヒーローに憧れるのは人として、そして世の常である。
そしてそんなヒーローを殺すのは世論であり少数の声なのだ。
ヒーローとて便利屋ではない。
困っている人を助け悪を成敗する、それはヒーローの精神をすり減らせる。
遠い未来の世界で人は問うだろう。
ヒーローはどこに行ったのか、誰がヒーローを殺したのかと。
ヒーローを敵視する人間がいる限り、それはヒーローを苦しめるだろう。
本物の悪とは異形でも化物でもない、人間の心にある悪意こそが真の悪なのだ。
お伽話に登場する魔王、それは人が描く理想の悪である。
だが真の魔王とは人の心にこそ潜んでいるのだ。
「この国の軍人もヒーロー扱いの反面一部の人間には嫌われていますよね」
「そうね、軍隊を批判する人は国が滅んでもいいと思うスパイだと思うわ」
「国政の中でも軍隊の常駐が民に不安を与えると抜かす政治家がいるそうです」
「バルディスタのときと同じなのね、敵国に与する政治家がいるのは」
世間一般で言われるレフトとライト。
それは本来共通点としてどちらにも愛国があるという点がある。
どちらの勢力にしても愛国を否定していたらそれは敵国の人間か売国奴だろう。
このトネオはその活動も控えめな感じではあるようだが。
「敵国の協力者は敵国がその国を支配したときに真っ先に殺されるのですよ」
「それも知らずに、政治ってやっぱりおかしいものね」
「世界の政治を見て学べばいいわよ、そこはね」
「ええ、そのために旅をしているんですから」
世界を見る。
そのためにも今はトネオの首都を目指す事にする。
シルティムを発ち次の小国へと飛び立つ。
世界の国は様々な情勢があるのだから。