平穏な民
トネオを首都に向けて旅するアレイシャ達。
特別な通行証の力もあってなのか特に障害なく進める。
現在はセミィンの小国に来ている。
この国の民が緊急事態に慣れているという事をアレイシャ達は知るのである。
「相変わらず軍人が目立つわね」
「ですね、ですが軍人が目立つのは民を守っている証拠です」
「軍は民を守り法は民を監視するもの、ですね」
「まあ落ち着かないとは思うけどね」
アナスティアの言う事も尤もである。
北の国の問題があるとは言え軍人が常駐しているのは落ち着かないものだ。
「でもそれだけ王様は民を考えているのよね」
「そうですね、少なくとも民を考えているからこその措置です」
「とはいえ軍人なんてやっぱり落ち着かないわよ、なんていうかさ」
「エロイーズの気持ちは分かるわ、元軍人としてもね」
エイルも元軍人としてその気持ちは分かるらしい。
それでも軍隊とは国を守るためにあり、民を守るためにあるとエイルは言う。
そんな中再び警報が鳴る。
またしてもスクランブルのようだ。
「北の国も仕掛けてこないって分かっててやってるわよね」
「というか、仕掛けた時点で負けです、相手がやっているのはそういう行為ですよ」
「どっちの国も戦争なんてしたくないしドンパチしたくもないでしょうしね」
「こういう挑発行為はいつか相手を爆発させるのにね」
とはいえ民は至って平穏である。
危機感はあるのかもしれないが、慣れ切ったその姿に少し驚く。
平和な国とは言い難いトネオ。
だが国民は北の国の挑発も空軍のスクランブルも慣れているのだろう。
だから顔色も変えず焦りもしない。
そのときに備えてきちんと備えをしておくだけなのだろう。
「とりあえずお腹空いたわ、何か食べたいんだけど」
「エイルさんはお店に入ると出禁喰らいそうですからね」
「とはいえこの国のご飯は美味しいし」
「まあ覚悟は決めましょ」
そうして適当な大衆食堂に入る。
そこで食事を摂るついでに今の国の状況についても訊いてみた。
するとやはり備えはしているものの、この状況には慣れてしまっているという。
国王も流石に簡単に戦争に出るほど愚かではないという信頼はあるようだ。
そんな民に信頼されている国王。
だが国としても油断は出来ないという考えは持っているようだ。
北の国のロサニアはそれを知っているからこそ挑発を繰り返す。
相手が強気に出れないと分かっているからこそ堂々と挑発が出来るのだ。
本当なら相手の飛空艇を一機ぐらい撃墜してやれと国民も内心は思っているようである。
だがそれをしたら開戦に繋がってしまうから出来ないという理由がある。
つまり相手はこちらが手を出すのを待っているのだ。
そうすれば大義名分が生まれ戦争開戦の口実に出来るからだ。
戦争だけは避けたいという事もあり、スクランブルしても手は出さない。
常に我慢をしているのだと店主は言っていた。
食事を終え店を出た後その言葉の意味を考える。
ロサニアという国も大概な策士であると。
「結局戦争って腹の探り合いなのね」
「そうよ、先に手を出した方が負け、それが戦争なのよ」
「相手も口実が出来るそれを虎視眈々と待っている、そういう事です」
「この国の軍事力はそれなりに高いですけど、ロサニアは大国ですからね」
エイルの言う先に手を出した方が負けという言葉。
それは戦争とは相手に理由を与えてしまった時点で悪者であり負けなのだ。
それを国民は知っていてもむず痒いものなのだろう。
相手の船にしろ飛空艇にしろ挑発をされたらそりゃ緊急なのである。
「まあ今は平気そうよね、馬鹿しない限りは」
「そう信じたいですね」
「それじゃ次の小国に行くわよ、指名があればどうぞ」
「ええ、なら飛行船に戻ってからね」
そうして次の小国に向け飛び立つ事に。
戦争の仕組みを少しは理解したこの国での話。
元軍人のエイルが言うからにはそれは正しいのだろう。
バルディスタの場合は内通者がそれを引き起こした。
戦争とは情報戦であり、相手の腹を常に探り合う事という事なのだと。