腐敗する軍
ヒルデを探すべく国内を移動する事にしたアレイシャ達。
とりあえず近くにある村へと移動した。
その村はかつては穏やかな村だった。
だが今は戦争により軍の動きがあり、重い空気に包まれている。
「ここも軍がいるのね」
「ええ、国内のどこにも軍がその地に留まっています」
「騎士団もそうだけど、防衛線なのよね」
とりあえず村人などに話を訊いて回る。
だがこれという情報はやはり簡単には得られない。
「さて、どうしたものかしらね」
「そもそもそんな簡単に教えてくれるとも思えないわよ」
「ですね、軍も主力は全て戦場に出ていますし」
とはいえ三年前の話でもある。
そんな簡単に掴める情報でもないのは確かなのだろう。
それでも諦めたくはなかった。
「ん?ねえ、あれって軍に食料とかを差し出してるの?」
「はい、国を守るのが軍隊や騎士団である以上優先されないといけないとか」
「その関係で貴族ですらそんないいものは食べられないのよ」
それは村や街で騎士団や軍に食料などを献上しろという命令でもある。
皇帝は戦争である以上苦しくても理解して欲しいと言う。
民達の暮らしはそれにより困窮し栄養もまともに摂れないという。
「あたし達も戦争が始まってからロクに食べてないのよ」
「教会という事もあってそれでも少しはマシなものを食べていましたけど」
「それこそ肉や魚は高級品って事なのね」
戦争による物価の高騰。
特に肉や魚などは戦争が起こる前の何十倍にもなっているらしい。
野菜ですら数倍に高騰し、辛うじて手に入る穀物などもそれでも高いという。
だが食べ物の高騰とは別に武器商人などはこの戦争でボロ儲けをしているという。
武器や防具の材料である鉄や銀などの値段は当然高騰。
それによりその関係者や武器商人達は大金を手にしているという。
「まさに武器屋や防具屋は一世一代の稼ぎどきという事なのね」
「ええ、それでもそれを配ろうとする人は少ないわ」
「どんなに大金を手にしても食料が高いですから、他人に配る余裕なんかないんです」
その物価の高騰もあり大金を手にしても瞬く間に消えてしまうらしい。
そのため自分たちの生活を支えるだけで手一杯だという。
「でも不思議と…」
「あれは…」
「やっぱりこういう事も起きるわよね、少し見にいってみましょう」
そこではわずかな食料を軍に献上している家庭があった。
「これっぽっちか、この村も限界だな」
「でもどうするんだ?流石に他と合わせても…」
「やっぱりあそこを頼るしかないのか」
どうやら何かを話しているようだ。
一人の騎士が言ったあそことは。
アレイシャはそれが気になり少し探る事にした。
帝都を出たのが正午過ぎのため、そろそろ日が落ちる。
宿を使うのは困難だろうという事もあり、近くで野宿である。
「はい、こんなものしか作れないけど」
「それでも充分よ、このご時世では贅沢なぐらい」
「ええ、なので気にはしません」
アナスティアの作ったものは簡単な穀物のスープと雑炊。
肉や魚はもちろん卵も入手は困難だ。
これでも精一杯のご馳走である。
そうしてセクネスとアナスティアが寝静まったあとアレイシャは行動を開始する。
あの兵士は国の軍人である。
野営地の近くで何者かと接触するかもしれない。
野営地の近くでそれを見張る。
するとあの兵士がテントから出てどこかへと移動していた。
アレイシャはそれを密かに追いかける。
「来たか」
「ああ、こんなものしかないが」
それは何やら怪しげな商人。
その商人に村で献上された麦を渡していた。
「麦か…ならこれと交換だな」
「充分だ、また困ったら頼む」
どうやら麦と肉を交換していたようだ。
だがその肉はどこで手に入れたものか。
そして渡した麦はどこへ行くのか。
アレイシャはあの商人らしき男が闇商人だと理解した。
恐らく敵国、そしてこの国を上手く行き来して物資を横流しさせている。
つまり二重スパイのような行為をしているのだと。
今はそれを証拠不十分で見逃す。
だがそれが戦争の闇だとアレイシャは理解した。
あの兵士が闇商人に流した麦、そして受け取ったのは他国から流された肉。
戦争が泥沼化するほどにそれは頻度を増すのだろう。
その翌日次の目的地に向かうべく再び歩き出す。
だがそれを何者かが見ているとは今は気づかない。
そうして次の目的地へと向かうのだった。