解放される死神
あれから数日が経過した。
戦争はバルディスタの勝利に終わり、国民は歓喜していた。
皇帝による勝利演説も行われたものの、そこにアレイシャ達は参加しなかった。
死んだ身である自分にはその式典に出る理由はなかったからだ。
「さて、どうしようかしら」
「先日もらった許可証があればどこにでも行けるわよ」
「でも国境が正式に開放されるのはもう少しかかりそうですね」
「なら彼女を迎えに行きませんか」
セクネスの言う彼女。
それは以前墓地の奥で見つけたあの死神を名乗る彼女だ。
「それもそうね、今ならまだ墓地に人は多くないだろうし」
「本当に死神なのかはともかくですが」
「まあいいんじゃない?」
「そうよ、楽しそうだもの」
アナスティアは相変わらずである。
とりあえずはその彼女を迎えに行く事にした。
宿を出て墓地へと向かう。
その奥にあるあの洞窟へと向かうのだ。
「お待たせしました」
「あ…あなた達は…」
「結論を出したから迎えにきたわ」
「ヒルデ、鎖を引き千切りなさい」
アレイシャの命に従いヒルデがその鎖を引き千切る。
彼女は衰弱しきっていてそのまま地面にへたれ込む。
「大丈夫?」
「はい…とりあえず…何か食べるものを…」
「ここではあれですね、宿に移動しましょうか」
「一人分宿泊費増しね」
そうして宿に移動し彼女に簡単な食事を摂らせる。
「それはそうと名前が分からないなら、私達で仮の名前つけない?」
「仮の名前ですか?ではゼスフィでどうでしょう」
「ゼスフィ…私はそれで構いません」
「決まりね、今後の事も考えなきゃ」
その後話し合いの結果、ゼスフィは同行させる事にした。
服などを揃えるかとも話したが、本人が必要ないというのでしばらくは保留に。
そんな中アレイシャは少し席を外し魔王城へと向かう。
少し気になる事があったからだ。
「おや、アレイシャさん」
「少し訊きたいの、時間は取らせないわ」
アレイシャが訊きたい事。
それはコレアムの歴史だ。
「あの国は遥か昔から大国の属国として生きてきた歴史があるんですよ」
「属国…つまりコバンザメみたいな感じね」
元ノースコレアムの研究者は国が分断された経緯も話してくれた。
「ですが私はコレアムが滅びるのは世界にとっての朗報、そう思っています」
「出身国をそう言うなんて相当なのね」
その研究者もあの国の異常性は理解していた。
だからこうして逃げて魔王に下ったのだ。
自分の力を人を殺すためではなく、救うために使いたい。
そのために国を捨てたのだそうだ。
「戦争は終わったそうですね、あとは国家解体ですか」
「世界で嫌われているコレアム人がこの先どうやって生きていくか、よね」
外国に移住しても安息は得られないだろう。
それはコレアム人が自分で蒔いた種であり全ては自業自得、自分に返ってきただけだ。
「なんにしてもコレアム人はこの先全てが自分に跳ね返ってくる、ですね」
「やっぱり悪い事は出来ないものなのかしらね」
その後も彼から歴史などについて聞いた。
それはコレアムという国の悲惨さを物語っていた。
アレイシャは改めて自分の無知を自覚した。
今後は生きているうちにその世界を見ておこう、そう決めた。
そのあとはミィアに会ってから帰る事に。
「お、目的は遂げたようじゃな、小娘」
「ええ、おかげさまでね」
そういえばとアレイシャはゼスフィについて訊いてみた。
「死神、世の中には天界や魔界という未知の世界から人間界に下りる奴もいるらしい」
「そうなの、だとしたら世界には実は他にも神様とかがいるのかしら」
ミィアが簡潔に言うにはその者達は自分から下りるという。
理由は人間が好きとか人間と交流したいとか友好的な理由の方が多いそうだ。
とりあえずその事だけでも聞けた事を感謝して仲間の下へと戻る。
ミィアはアレイシャの背中に翼を見たのかもしれない。
そして戻った後今後を相談する。
国境が開放されるまではもう少し滞在になった。
国境が開放された後アレイシャ達は西へ向かう事で一致する。
西、それは数多の知らぬ国がアレイシャ達を待っているのだ。