私的な面会
復讐を遂げたアレイシャ。
そのまま現状を確認すべく帝都へと戻る。
国内では一斉に摘発が始まり、戦争は突撃の指示に変わった。
だが全てが片付くまでにはまだ時間が必要だろう。
「相変わらず静かなのね」
「戦争自体は終結していませんからね」
「コレアムの首都を制圧するまでよ」
「とりあえず少し見て回りますか」
そうして帝都の中を見て回る。
戦争の勝利宣言はまだ出されていないのか、だが少し明るさを感じる。
「アレイシャ殿」
「あ、ダルコ殿」
「どうしたのかしら」
「何か用でしょうか」
ダルコは恐らく来るだろうと思っていたらしい。
そして皇帝からの言伝を持ってきたという。
「皇帝が私的な面会を望んでいる、会ってはもらえないか」
「私的って事は公式じゃない一個人としての面会?」
「油断は出来ないんじゃないの」
「どうなさいますか?」
アレイシャは一応会う事にした。
ダルコに連れられ城の裏門へ、そこで皇帝の私室の場所を聞く。
「ここかしら、皇帝陛下!アレイシャです!」
「うむ、入ってくれ」
返事を確認して部屋の中へ。
「よく来てくれたね、私なんかに会ってくれるかと不安だった」
「…なぜ私的な面会を求めたのですか?」
「そうですね、その理由だけでも」
皇帝はどこから話せばいいかと言う。
そして事の発端も話してくれた。
「私は最初から動きには感づいていたんだ、君には悪い事をした、許せとは言わない」
「つまり知ってて私への任務を出して、挙句お父様とお母様を自殺に…」
「だとしたら国内の不穏分子をあぶり出すためにって事でいいの?」
皇帝はそのために犠牲を決意したのだそうだ。
人数人の命でその何倍もの人を救える。
皇帝としての天秤なのだろう。
アウグスタとダルコを信じていたからこその冷酷な決断。
それによりアレイシャを犠牲にこうして多くの不穏分子をあぶり出し摘発した。
皇帝である以上国のためにはそうした決断も理解して欲しいとだけ言う。
「だが君は生きていた、父君と母君には申し訳が立たない」
「戻ってこないのは知っているわ、国を守るために私を切り捨てたのも」
「全部を達成しようなんていうのは傲慢です、陛下は最初からそのつもりでしたか」
皇帝は戦争が終わったらアレイシャの両親の墓に墓参りをさせてくれと言う。
そして皇帝として決断しなければならない事はあるのだと言う。
「だが騎士も人間だ、君を嫌っていた騎士は確かにいる、忘れないでくれ」
「はい、そっちは私も」
「あの、戦況とかは」
皇帝の話ではコレアムの首都に到達したという。
あと数日で首都は陥落し、コレアムは制圧されるらしい。
だが制圧したあとは統治をするつもりはないという。
そのままコレアムという国そのものを滅亡に追い込むそうだ。
「あの、それじゃ国は今後はどうなるの?」
「コレアムを滅亡させたときに勝利宣言、あとは復興に全力を注ぐ」
「そうですか、今度こそ国を取り戻せるように信じています」
セクネスとアナスティアもその皇帝の言葉を信じる事にした。
元孤児の二人は国の限界も見えていたからこそ、それを信じるのだ。
「それと、君を騎士団に戻す事は出来ない、代わりにこれを持っていきたまえ」
「これは国境移動の特例許可証…なぜこんな特例を…」
「それも人数無制限ですよ、本当にいいのですか?」
皇帝はアレイシャに世界を見てくればいいと言う。
それはこの国の外にはこの国とは比べ物にならない悲劇がある。
そして君は憎しみでその命を救えばいいと言う。
世界を憎め、憎悪を燃やせ、それは同時に命を救う力にもなる、と。
「コレアムの件が片付けば国境は自由になる、あとは君次第だよ」
「感謝します、では私達はそろそろ」
「失礼しました」
そうして皇帝の部屋をあとにして裏門から外に出る。
去り際に皇帝はアレイシャの背中に何を感じ何を見たのだろうか。
戦争終結までもう少しかかる。
それまでは帝都に滞在する事にした。
エロイーズにも付き合うと約束したので、そっちもだ。
戦争は間もなく終結する、そして新たな世界へと踏み出すのである。