日食の日
ついにその日がやってきた。
日食の日になりイチョウの森に潜伏するアレイシャ達。
そこで動きはあるのか。
そして軍と騎士団の動向も気にしつつその様子を窺う。
「日食が始まるまであと少しですね」
「アウグスタの言う通りなら動きがあるのよね」
「何があるかは分かりませんけどね」
「とにかく静かに潜むのよ」
そのまま気配を殺し潜伏を続ける。
そして日食が始まる時間となり、日が隠れ始める。
「誰か来るわ」
「ふふ、私の役目も終わり、あとは他国で悠々自適な暮らしが保証される」
「どうやらあれが工作員の親玉、エラヌと見て間違いなさそうです」
「ここで逃亡の手筈、かしら」
その男は人を待っているようだ。
だがその男の待ち人は来るはずもない。
その理由は森の全方位にネグルの部隊が張っていたからだ。
男が合流すべき相手は今頃お縄になっている、国内の売国奴達である。
「…おかしい、約束の時間は…」
「その理由、知りたいかしら?」
「何も感づいていないとは、傲慢なのか、愚策なのか」
「コレアム人ってやっぱり客観的に見れないのね」
その姿に男は震え上がる。
あのとき確かに殺したはず、その殺した人間が目の前に現れた。
エロイーズの早撃ちが逃げようとした男の頬を掠める。
そしてヒルデが一気に取り押さえ地面に叩きつける。
「なんで…殺したはずだ…お前はあのとき…なぜ…生きている…」
「聞いてるんでしょう?なら私があなたをどうしたいか、分かるわよね?エラヌ」
アレイシャが剣を抜く。
本来なら重要な参考人なのだが、アウグスタもダルコも殺していいと許可していた。
別にこのエラヌでなくとも国内に参考人に出来る人材は山ほどいるからだ。
じわりと距離を近づけその瞳を睨みつける。
「やめてくれ…私は…国に言われて…」
「そう、言い残す事はそれだけでいいのね?」
エラヌの目は完全に恐怖に支配されていた。
だがそれを逃がすつもりなど毛頭ない。
「わ、私を殺したところで…戦争は終わらない!終わりはしない!」
「別に戦争が終わるとか関係ないわ、私はね、あなたを殺したいだけなのよ」
物凄く冷たく、そして突き刺さるような氷の言葉。
その言葉にエラヌはもはや動く事すら出来ない。
「やめて…やめてくれ…なんでも話す…だから…」
「黙れ、私はあなたを殺すために生きてきた、だからあなたを殺す、理由はそれだけよ」
その瞳は相手をその場に釘付けにした。
鋭く影縫のような眼光がエラヌの運命を語る。
「さて、お喋りはお終い、さようなら、これはお父様とお母様、そして私の痛みよ」
「やめ…助け…ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アレイシャの剣がエラヌの心臓に突き立てられる。
右心臓の可能性も考え左右の胸を執拗に剣で突き刺す。
そしてエラヌはその場で絶命する。
アレイシャの復讐は遂げられたのだ。
「これで満足なのね?」
「ですが恐らく彼は扇動した可能性もあります、国内には他にも」
「そうね、そっちは相手が忘れた頃に殺しにいくわ」
「アレイシャ…」
以前ネグルの言っていた国に嫌われていたという言葉。
その言葉からして自分を嫌う人間は他にもいる。
それを扇動したのがこのエラヌ、そして親コレアム派。
解決になるわけではないと知りつつも、そいつらにもいつか会いに行くと決めた。
そうしてそのまま森をあとにする。
エラヌの死体はネグル隊が回収し本国に運ばれた。
そしてバルディスタ全土でコレアムの工作員と親コレアム派が一斉に摘発される。
それはアウグスタとダルコが水面下で進めていた計画。
戦場でも動きがあったらしく、バルディスタ軍が一気に攻勢に出たという。
コレアム軍は瞬く間に制圧され、そのまま敵国に侵攻が開始されたらしい。
当然本国でも工作員、そして親コレアム派の一斉摘発が始まったという。
知将アウグスタ、勇将ダルコの軍と騎士団による策が見事にハマった瞬間だ。
アレイシャ達は状況を確認すべく帝都へと向かう。
今の状況なら帝都にもすんなり行けるはず。
帝都で皇帝に会えるのか。
国は今後どうなるのか、それを確認しに行くのである。