かつての同僚
イチョウの森に行く事に備え国内南部に移動したアレイシャ達。
そこで日食の日まで時間を潰す事にする。
だがそこでアレイシャは思いがけない人物と出会う。
そして思わぬ言葉を聞く事になる。
「さて、イチョウの森に近いハウゼンベルクですね」
「あと一週間、いつでも森に行けるようにしなきゃね」
「そうね、とりあえずする事があるかはともかく」
「では一旦自由ですね、何かあれば広場で」
そうして一旦自由になる。
街は今の情勢下では平和な方である。
「…平和な方とはいえやっぱり戦時中なのよね」
「そうですね、私達はアレイシャ様に生きていただいた事が嬉しいのですよ」
「私としてはあんたに興味があるだけよ」
「あの、あなたは…アレイシャ様…ですか?」
突然声をかけられる。
それは懐かしい顔、かつての部下のネグルだった。
「ネグル…戦時中なのにどうしてあなたがここに?」
「場合によっては容赦しませんよ?」
「戦うつもりはありません、私はダルコ団長閣下に言われてここにいるのです」
「あの団長に?」
ネグルはそのまま申し訳なさそうにアレイシャに頭を下げる。
そして泣きそうな目で生きていた事を喜んでくれた。
「それで、あなたはあのときの事を何か存じているのでは?」
「そうですね、ここでは誰かに聞かれているかもしれない、こちらに」
「ええ、分かったわ」
「同僚ねぇ」
そうして人気のない路地に移動する。
「それで、何か知っているの」
「あのときの任務自体不満を持つ者と親コレアム派に仕組まれたものです」
「つまりそいつらが結託してアレイシャを消そうとしたって事よね」
「不届きなものです」
ネグルは続ける。
「アレイシャ様、あなたは国に嫌われていた、だから消されたのです」
「そう、それが真実という事ね」
「意外と冷静なのね」
「もう少し熱くなるかと思いましたが」
だがそれが真実。
ネグルはさらに続ける。
「以前の尋問のときの件ですでに生存は伝わっています、それでも…」
「そうね、私は復讐を果たすだけ、奪った奴に奪われる気持ちを教えるだけよ」
「アレイシャ…」
「奪われる気持ちを教える、気持ちいいではありませんか」
ネグルは騎士団には戻らないのかと問う。
だがアレイシャは死んだ人間に戻る場所はないとだけ返す。
「そう、ですか、私は立場上力にはなれません、ですがその目的を必ず」
「ええ、あなたも私の代わりとして、私のなれなかった理想になってね」
「意外と優しいわよね」
「それが本来ですよ?」
そうしてネグルは敬礼とお辞儀をしてその場を去っていった。
かつての同僚、彼女には自分に叶えられなかった夢を叶えて欲しい。
アレイシャはそう彼女に夢を託した。
復讐の道を選んだ事に一片の後悔もないのだから。
「さて、あと一週間、いつでも動けるようにね」
「はい、私はアレイシャ様の仰るままに」
「私は信じなくていいけど、死なせはしないわよ」
その頃のセクネスとアナスティアは力になれないかと考えていた。
「我々も何か力になれないものでしょうか」
「難しいわよね、もういっそスパイにでもなる?」
とはいえそんな技術もないので却下だ。
「本当に出来る事、私達はそれをすればいい、でしょうか」
「とはいえ何かあるの?教育は受けてるけど特殊なものは…」
なんにしても二人もそれについては悩んでいる。
それでも自分達に出来る事をしよう、それが彼女への恩返しだ。
「なんか昔を思い出すわね」
「ええ、孤児だった私達がアレイシャ様に拾われて、教会に預けられて」
それは二人の過去。
生きるのに精一杯だった貧しい幼少時代。
アレイシャへの恩はこの身を以て返そう。
そう誓ったあの日から今に至るまで。
「なら迷う必要なんかなかったわね」
「そうですね、迷いはありません」
その後はイチョウの森に行く日までこのハウゼンベルクに滞在だ。
その日に事態は動く、アウグスタとダルコの言う好機。
そして内通者をあぶり出すための作戦。
全ては日食の日に動く事になる。
動きがあるその日まであと一週間である。