敵国の情勢
騎士団長のダルコの話では準備は進んでいると聞いたアレイシャ達。
一ヶ月後のその日まで出来る事をしようと決めた。
とりあえずはその日を待つわけだが。
何か出来る事はないかと考えていた。
「うーん、何か出来ないものかしら」
「そうは言われてもねぇ」
「我々に出来る事は限度がありますよ」
「でも暇よね、何か出来るといいんだけど」
そんな中ヒルデが敵国の情勢について調べてみないかと提案する。
それは酒場に集まる情報を集めるとの事だ。
「今の酒場は情報屋も兼ねています、戦時中だからこそですね」
「ならそこで少し訊いてみましょうか」
「まあ出来る事もないしね」
「一応行くだけ行ってみますか」
そうして酒場へ移動する。
街の様子は戦時中という感じだ。
酒場も人が集まらないので、情報屋も兼ねるらしい。
少しでもそれで国内に情報を届けられれば、という事だ。
「すみません、情報が欲しいのですが」
「ああ、少し金は取るよ、それで何が欲しいのかな」
「コレアムの国内情勢が知りたいの」
「少し知っておけば何かに役立つかと思いまして」
それに対しマスターは金額を提示する。
その情報料を払い、コレアムの情勢に関する最新の資料を出してくれる。
この資料は軍から提供されたものらしく、信憑性はあるそうだ。
軍も裏で何をしているか分からないものである。
「えっと、国外逃亡のコレアム人が50万人を突破、ですか」
「コレアム内の小国も含めた統計ですね、国民はみな逃げていると」
「あのー、出来れば飲み物頼んでくれると嬉しいんだが」
「ではフルーツミルクを四人分で」
一応飲み物は頼んでおく。
そのあとも情報を読み進める。
「やはりコレアムは軍が政治を掌握してから混迷の彼方にいるようですね」
「以前もそんな話は聞いたわね、大統領が失脚したとか」
「要するにクーデターよね、そんでそのまま戦争へレディゴーよ」
「戦争で国民を徴兵もしていて、その関係で逃げる国民続出ね」
そういったコレアムの情勢。
それは戦争に走った経緯とその混乱ぶりを窺わせる。
アウグスタは負けないように戦線を維持するように指示していると言っていた。
つまりバルディスタは最初から負けるつもりなどないという事が分かる。
国内の親コレアム派はコレアムに勝算があると思っていたのか。
少なくともあると思っていたらバルディスタの軍事力をなめすぎである。
「ま、独裁と言うかそんな政権なんてすぐ終わるわよ、所詮は専門外なんだし」
「エロイーズの言う通りですね、政治は政治屋の仕事、軍人には無理です」
「あと相手としてもバルディスタがここまで耐えてくるとは計算外、とか」
「それはありそうね、というか軍隊の質の違いが目に見えた時点で分かってるわよ」
コレアム軍は元々規律の乱れが酷いとはエロイーズは言う。
国内で作られた兵器は欠陥品だらけでまともに使えない。
軍人も規律の乱れが酷いらしく、徴兵などそんなものだと言わんばかりだ。
軍隊は本来厳しい訓練を受けた兵士達で構成されるもの。
それを緊急で徴用した民が戦力になどなるわけもない。
徴用した民兵の逃亡も後を絶たないらしい。
「もうぼろぼろじゃないの、よく維持出来てるわね、コレアム軍は」
「正式な訓練を積んだ正規兵だけが生命線ですね、それもアウグスタ殿の頭です」
「つまり相手を逃がさない程度に戦わせてるのね」
「攻めに出たら一気に崩壊するレベル、全軍突撃を指示すればお終いですね」
以前アウグスタに聞いた通りのようだ。
要するに戦線維持の命令を三年間も通し続けている。
それにより騎士団と結託し内通者のあぶり出しに動いている。
機を窺い続けていたのである。
「これ完全にコレアムと内通者がハメられてる形よね?」
「ですね、だとしたら皇帝も相当な策士になってしまいますよ」
「バルディスタを甘く見た、ですね」
「恐るべしね、本当に」
そうして飲み物の代金を払い店を出る。
この様子なら心配はなさそうと踏む。
あとは二週間後のイチョウの森だ。
それに備えバルディスタ南部に移動し、しばらくそこを拠点にする事にした。