差別と権利
レザースに頼まれたタリスマンを取り返しに行くアレイシャ達。
近くの森との事で、その森へとやってきた。
その森は普段は森林浴も出来る森。
だが戦争によって人の姿は見えないままである。
「にしてもレザースね、あいつ指名手配犯なのによくうろつけるもんよ」
「何か捕まらない裏技でも使ってるのかしら」
「どうでしょうね、胡散臭い男とは思いますが」
「まあ悪い人には見えませんけど…」
セクネスの言うように悪い人ではないのだろう。
とはいえ指名手配にされる理由はあるのだとエロイーズは言う。
「それでこの森にそのタリスマンを奪った奴がいると」
「そんな広い森でもないですしさっさと終わらせますか」
「あいつ戦えないわけでもないのに」
「まあ時間はあるからつきあってあげましょう」
そうして森を歩いていると何かを見つける。
どうやら野営をした跡のようだ。
「野営の跡ですね」
「つまり犯人は森にまだ潜んでるのね」
「ならさっさと終わらせちゃいましょ」
「盗みなど言語道断ですからね」
そのまま森を歩いていると人の姿を見つける。
そいつはこちらの姿を見るなり逃走する。
それをすぐさまヒルデとエロイーズが追う。
二人の足の速さにセクネスとアナスティアは驚いていた。
そして二人の後を追うとその逃げた男は捕らえられていた。
恐るべき仕事の速さである。
「くそっ、放せ!」
「タリスマンを奪ったのはあなたですか、素直に返しなさい」
「それとも痛い目に遭いたいかしら」
「あまり暴力的な事は駄目ですよ」
そのあとはタリスマンを無事に取り返す。
そしてその男に事情を聞く。
「あなた、コレアム人ね?それがなんでこんなとこにいるのよ」
「逃げたんだよ、あの国にいても差別される、職もないし未来なんてない」
「それでそういう希望を求めて外国に逃げた、ね」
「でもその話は本当なの?」
男の話ではコレアムは今でも階級社会が残り平民はまともな職すらないらしい。
それに加え生きていくには大きな組織に属さないと駄目だという。
さらには戦争で徴兵される事もあり逃げる民は後を絶たないそうだ。
この男もそんな人間で生きるために逃げたという。
「でもコレアム人はプライドの塊だ、外の国に逃げてもプライドが邪魔をする」
「そういえば聞くわね、コレアム人が世界のあらゆる国で嫌われてるって」
「つまり外国に逃げたところでプライドがそれを許さない、と」
「なんか難儀ね」
男は生きたいだけだという。
国は差別の溢れ階級に支配され貧しい人間はまともに暮らせない。
戦争で国の貴族達すらも国外に逃げ出す者が多いという。
もはやコレアムはノースコレアムに統一されるのも時間の問題、とも。
「なんにしても罪は罪です、見逃せませんよ」
「とはいえ刑務所なら最低限の保証はする、それでいいかしら」
「生きられるなら刑務所でもなんでもいい、俺はそれだけでいい」
「ならさっさと街の警察に突き出すわよ」
そうして男の身柄を確保して街へ帰る。
そのまま警察に男の身柄を預ける。
男は取り調べで前科が複数発覚したらしい。
だが今の状況で国に送還は難しい。
一旦国の刑務所に入れ、戦争の状況と相談になる。
生きたいだけ、その言葉の意味が胸に刺さる。
とりあえずはレザースにタリスマンを返しにいく。
「取り返しましたよ」
「ああ、助かります、それといいものが見れましたよね」
「まさか知ってた?」
どうやらレザースはその犯人を知っていたらしい。
「つまり私達にあれを見せたくて行かせたとか?」
「戦争はああいったものをたくさん生み出す、生きるとは汚れてでも、ですよ」
「あなた、随分な口を聞くのね」
レザースもどこか皮肉めいた事を言う。
それはレザースが過去に何をしたのか、なのだろうか。
「なんにしても感謝します、お礼にこれを」
「これは…幸運の金貨?こんな貴重なものを…」
幸運の金貨、とても強い力を持つ魔法アイテムだ。
レザースはそのまま軽く頭を下げ去っていった。
とりあえず一旦は自由になる。
次は何をするかを考える。
そして次はヒルデの提案により帝都のある場所へと行く事になった。