ヒルデの影
戦争の背景を聞けないかと軍本部を訪れたアレイシャ達。
中に入れるのかと思いつつも、その門の前に立つ。
今は軍は戦場に出払っていて、指揮官と最低限の防衛隊が残るのみだ。
そして中に入れてもらえるように衛兵と交渉する。
「あの、司令官に会いたいのだけど…」
「ん?なんだ、今はそれどころではない、出直されよ」
「だそうよ」
「ほら、やっぱり無理なんじゃないの」
するとヒルデが前に出る。
そして改めてヒルデが門番に交渉する。
「あ、あなたはもしやヒルデブルク殿!?今中へお通しします!」
「では参りますか」
「あの屈強な軍人がヒルデを見てビビってる…」
「どういう事なんですか…」
そうして軍本部の中へと通される。
そのまま軍人に案内され司令室へ。
「相変わらずだな、君は昔と変わらず畏怖の対象という事か」
「それは昔の話ですよ、アウグスタ総司令官殿」
「えっと、あなたが軍の総司令官…」
「ご無礼を…」
そのアウグスタという司令官はヒルデを存じているようだった。
それはそうと本題に入る。
「ふむ、君が死んだはずの騎士、アレイシャ君だね」
「ええ、そうですが」
アウグスタは顎に手を当てその話を始める。
「三年前に任務中に何者かに狙撃され死んだと言われる、だがこうして生きていた」
「でもあれから行方不明だったのも気にかかります」
「国では死亡扱いです、でも当時の話では死体は確認していないそうです」
「でも狙撃されて崖から落ちて生きてるって天文学的な数字になるわよ」
それに対しアウグスタは言う。
「だとしたら奴らも黙っていないだろうな、知られれば再び消しにくるかもしれん」
「それは内通者という事ですか?」
「調査で内通者の存在はこちらでも掴んでいます」
そしてアウグスタはヒルデとエロイーズに部屋の中の本棚の本の裏を調べるように言う。
「これって…」
「エコーストーンですね、どうやら会話を記録されていたようです」
「アウグスタ殿、まさか知っていて…」
「この私がそれに気づかぬほど腑抜けていると思ったか?」
エコーストーン、それは会話を山彦のように加工出来る魔法石だ。
アウグスタは最初から知っていて放置していたらしい。
「そしてなぜ放置していたか、分かるか?」
「まさか戦争における内通者の告発にでも使うつもりですか」
アウグスタはすでに過去の親コレアム派との会話を保存しているらしい。
魔法石は魔法の抽出が可能なため、記録も当然保存出来る。
「つまりこれは内通者が仕込んだもの?」
「だろうな、今までも何度か本国から人が来ている」
「とんだ策士ね、でも回収に来たんじゃないの?」
どうやら仕込んだはいいが、それ以降は回収させないように気を配ったという。
そうして今が好都合とばかりにそれをその場で砕いてみせる。
「今までの会話は記録済みだ、あとは全部門前払いさせればいい」
「それではあなたは全てを知っていて?」
「アウグスタ殿は若い頃は諜報機関所属、その後は軍の総司令官に抜擢されるぐらいです」
「つまり頭が恐ろしく切れるって事でいいのね」
エロイーズの言う通りだ。
アウグスタはその頭脳から戦闘における作戦にはお墨付きをもらう程度には優れる。
「軍には負けない程度に戦線を維持しつつ命令に従い戦うように言ってある」
「それで三年間も戦争が続いたのに優位のまま維持してるのね」
そしてアウグスタは言う。
自分は所詮は軍人なので国の命令には逆らえないと。
だからこそ命令にはきちんと従い、その上で告発の準備を進めているらしい。
ヒルデはそれを知ってか、話をしていた。
「さて、君を撃った者に復讐をするのならエラヌという名を覚えておくといい」
「エラヌ、それが私を…」
アウグスタは戦線は自分達に任せ、アレイシャ達はそれを遂げよと言った。
その機会はイチョウの森で日が隠れるときに訪れると。
「では我々は失礼します」
「うむ、憎しみは晴らしてこそだ、いいな」
そうして軍本部をあとにする。
アウグスタの言ったイチョウの森で日が隠れるとき。
それについても調べてみる事に。
ヒルデの謎を改めて垣間見たのであった。