量産型の顔
工作員を確保するべくランゲベルクへとやってきたアレイシャ達。
なんとか四日後になる前に到着しコレアムに近い場所で張る。
時間は常に同じで昼の二時頃らしい。
その時間の数時間前からコレアムとの国境で待機していた。
「どうかしらね」
「そんな簡単に出てくるものかしら」
「忍者の情報収集能力は下手なスパイよりずっと上ですよ」
「もう少し張ってみましょう」
それからさらに少し様子を窺う。
すると一人の怪しげな女が姿を見せる。
「あれかしら」
「確実に確認してからよ」
「分かっています」
「音を立ててはいけませんよ」
そして反対の国側からも怪しげな男がやってくる。
二人はその場で何かをやり取りし始める。
それを確かに確認したため行動に出る。
それに対し二人は慌てて武器を取る。
「貴様らいつから!」
「おっと、せっ!」
「がはっ!?」
「そっちも観念しなさい!」
男はヒルデがそのまま投げ飛ばし地面に叩きつけた。
女は銃をそのまま撃とうとするものの、エロイーズの早撃ちでそれを弾かれる。
「貴様ら…バルディスタの騎士か!」
「そうだとしたら?ここで死ぬあなたには関係ないでしょう?」
「この女…マジで殺る気かよ…」
「アレイシャ、やりなさい、復讐は相手を不幸に叩き落とすまでが復讐よ」
その名前に二人はその顔色を変える。
「アレイシャ…だと…お前はあのとき殺したはず…生きてたのか…!」
「だとしたら?」
「確実に撃ち抜いたはず…しかも谷底に落ちたんだ…あれで生きてるわけ…」
「残念ですがここで見ているものが真実です」
だがその女は自分の立場を語りこの期に及んで脅しをかける。
「私は仮にも国の騎士団の人間…工作員だと知らない国の連中が黙ってないわ…」
「だから?私を殺したのはあなた、それなら死んだ人間が殺しても問題ないわね」
「こいつ…自分が死亡扱いにされてる事すらも利用するのかよ…」
「どうせアレイシャは国からも歴史からも消されてる、不都合なんかないわ」
工作員はそれでもなお脅しをかける。
「国に追われるぞ…ヘーゼルの助力を無駄にするのか…」
「お喋りなゴミね、もういいでしょう?自分を呪って、死ね」
「がはっ…はははっ…やってくれる…私の死が…貴様達を…追い…詰め…」
「そっちの男はどうする?」
男は抵抗する様子はない。
だがこれで戦争はさらに悪化すると嘲笑い何かを噛み砕く。
「まさか毒ですか!」
「自決するとはね、仮にも国の諜報機関って事かしら」
「それはそうとその殺した女は?」
「違う…こいつは違うわ…」
アレイシャは怒りに震えていた。
殺したその女はコレアムのスパイ技術の一つである整形手術を受けていた。
つまりアレイシャを殺した奴ではない。
アレイシャが殺したのは赤の他人だった。
「これが噂に聞く整形手術ですか、量産型の顔、つまり改造ですよ」
「そんな…では…」
「あたし達また追われるって事なの?」
「行方不明にするにしてもそんなすぐには…」
だがそれでもアレイシャは諦めていない。
必ずあのときの奴を見つけて殺してやるとその炎を燃やす。
しかし国の騎士、工作員とは知らない国が知ればどうなるか。
国に工作員が入っている事を大声で叫んでも聞いてはもらえないだろう。
しかもアレイシャは死んだとされているのだ。
名を語る偽物が国を陥れようとしていると言われるかもしれない。
そんな中エロイーズの立場を思い出す。
アレイシャはエロイーズに内緒の話を持ちかける。
「要するに中央の力を使えないかって?伝えるぐらいは出来るけど難しいわよ」
「それならせめてエメラダ教の力でもいいの、なんとか…」
だがエロイーズ曰く中央教会のスパイの事は国のトップすら知らない事という。
頭のおかしなエメラダ教徒としてしょっぴかれるだけだそうだ。
「とはいえ手段自体はあるわ、そこはスパイとしての技術を信じなさい」
「分かったわ、信じるから頼むわよ」
そうしてみんなの下に戻る。
国の調査を欺くためにエロイーズはその死体に工作を入れる。
それにより死んだ工作員は内通者として報告され謀殺にされた。
その女は敵国にハメられたとして処理されたのだった。