静かな帝都
魔王城から帝都近くに転送してもらった。
私はその足で帝都バリンスタに走る。
幸い国境から離れているためか血の臭いは薄い。
だが泥沼の戦争中という事もあり警戒は常にしておく事にする。
「ここが今の帝都…」
街に入ろうとすると門を守る兵士に止められる。
事情を説明するものの死んだ人間の言う事など信じてもらえるはずもなかった。
私はこの国ではすでに故人、偽者を語るとして捕まるわけにもいかない。
素直に引き下がりある場所へと向かう。
そこは帝都の地下に張り巡らされる下水道。
悪臭に耐えつつそこから街へと侵入する。
「なんとか入れたわね、それにしても酷い臭い」
その足で帝都内部を見て回る。
街の中は知っている帝都の姿ではなかった。
民は戦争により貧困となり騎士や軍隊も防衛隊を除き戦場に出ているのだ。
皇帝に会おうにもそれは無理な話だと理解している。
ならばせめて知り合い達はどうしているのか。
その人達に会えれば何か分かるか。
私は国にある教会へ向かう。
そこは幼馴染の騎士とシスターが働く場所だ。
その二人に会う事が叶うのなら、何かが分かるかもしれない。
教会の人達は私の事もよく知っている。
恐れられる事は承知の上で教会へ走る。
「ここは救護所になっているのね、怪我人は少ないけど…」
すると一人のシスターが私の方に走ってくる。
「あなた…アレイ…シャ…なの…」
「…そうよ、死んだ人間が化けて出たとでも思ってる?」
冷たくそう言い放つ。
だがシスターは私の手を取り嬉しそうに泣いてくれた。
私はそれが嬉しかった。
中へと案内され今出せるせめてものものとして薄いお茶を出された。
「あなた、生きていたのね」
「ええ、心配をかけたかしら」
シスターは泣きながら怒ってくれた。
そして現在の情勢も話してくれた。
「そう、戦争は三年間ずっと…」
「あなたが任務で殉職したって日から一週間後に突然の開戦、一気にね」
それは狙っていたかのようなスムーズさだったらしい。
あのとき私を射抜いたのはバルディスタの銃兵。
つまり戦争開戦の口実を作るために殺されたのだろう。
恐らく国の内部に他国との内通者がいる。
そいつが私を利用して一気に開戦に向かわせたと思われる。
「そうだ、それよりセクネスとアナスティアはいないの」
「あの二人は近くの森に怪我に効くという薬草を採りに行って五日も戻っていないの」
セクネスとアナスティア、それは私の幼馴染で騎士とシスターだ。
二人とも実力はあるので簡単に倒されるとも思えない。
私はその森の場所を訊く。
「危険よ?それでも行くの?」
「ええ、何かあるのなら私が二人を連れて帰る」
その目には強い意志が宿っていた。
だが同時に濁った何かも宿っていた。
「分かりました、その森は帝都の南西にあるハイザの森です」
「感謝するわ、それじゃ行ってくるわね」
そうして私は森へと向かう。
シスターは私が生きている事を神に何度も感謝していた。
「そうだ、森に行く前に家を見てから行きましょう」
私は家へと向かう。
だが家は物資の保管庫になっていた。
その保管庫の番兵にこの家の事を訪ねてみた。
「この家か?今は物資の保管庫だよ、住んでいた人は三年前に自殺したんだ」
「自殺…そん…な…お父…様…お母…様…」
ショックは隠せなかった。
父も母も私の死がそれだけ辛かったのだろう。
自ら命を絶つなど馬鹿げている、だがそれを選ばせたのは私の死。
それに後悔の念が押し寄せる。
そんなときふと思い出す。
「あの、なら使用人などは?」
「使用人…そこまでは知らないな、だが死んだとは聞いていない」
つまりメイドや執事などは離散しただけで生きている可能性がある。
私は一番信頼していたメイドを思い出す。
彼女を探せば何かを聞けるかもしれない。
行方知れずの彼女を探す事も視野に入れ、改めて森へ向かう。
再び裏通りの下水道を抜け街の外へ。
その足で駆け足気味にハイザの森へと向かう。
この世界は何もかもが理不尽で不条理だ、それでも私は進むのだから。