影に生きる存在
あのときの場所で壊れたコレアム製の銃を回収した。
それは年月の経過で酷く劣化していたが、何者かが捨てたのは確実だ。
その銃が国内に工作員の潜伏を示唆させる。
だがそれに近づく方法は見出だせないでいた。
「駄目ね、工作員の存在は感じるけど誘い出そうにも」
「餌があれば別なんじゃないの」
「餌ですか、つまり工作員が欲しがるものでもあれば、ですね」
「そんなものは…あるとすれば国内の情報とかでしょうか」
だがそんなものを手に入れるのは困難だ。
少なくとも工作員が求めそうな情報は無理だろう。
「ならばこちらも工作員を使いますか」
「こっちも使うって…それを雇うとか?」
「そんな奴どこにいるのよ」
「少なくとも国内の諜報関係者はお金では雇えないですよ?」
ヒルデの話では、この世界には極東の国の影の存在がいるらしい。
その者達は報酬と引き換えに国に雇われたりするという。
要するにそのその影の存在を雇ってしまおうというのだ。
ヒルデの話ではこの国にもその里があるらしく、行ってみるかとのこと。
「まあ当てがない以上それに頼るしかないのかしら」
「私は別にいいけどね」
「なら決まりね」
「ええ、ヒルデさん、案内を頼みます」
そうして街を出る。
ヒルデの話では里は頻繁に移動するらしい。
この時期の里は隣の小国だろうとのこと。
とりあえず隣の小国に移動し、ヒルデに連れられ森の中へ。
その森は至って普通の森だ。
だがヒルデについていくと何かを抜けたような感覚を受ける。
そしてその眼前には見た事のない景色が広がっていた。
ここがヒルデの言う里らしい。
「待て、里に入るのならばその身に何もないか確認する」
「構いませんよ、武器などは預かってもらえば敵ではないと納得しますね?」
「はぁ!?武器を預けるって…」
「ですが警戒されている以上潔白の証明は必要です」
そうして里の入り口で手持ちの武器は全て預ける事に。
それで納得したのか奥にある大きな家に行くように言われる。
「ここです、あと靴は脱ぐように」
「はぁ、分かりました」
「変わった感じね」
「これが噂に聞く極東の文化なのかしら」
そのまま奥の部屋へと進む。
そこには老人が茶をすすっていた。
「おや、ヒルデ殿ですか、懐かしい」
「お久しぶりです、ゲンライ殿」
「知り合いなの?」
「そのようですが…」
そのゲンライという老人にヒルデが理由を説明する。
「なるほど、国の内部を知りたいので忍者を一人貸して欲しいと?」
「ええ、なるべく腕の立つ人で」
「忍者って何かしら」
「恐らく極東の国のスパイのようなものだと思います」
それに対してゲンライは理由を尋ねる。
「そうですね、主の憎しみを晴らすために、ではいけませんか」
「憎しみですか、まあヒルデ殿には恩義もあります、一人でいいですね?」
何やら恩義がある様子。
ヒルデはそれで話を飲みその忍者を呼んでもらう事に。
「お呼びでござるか」
「朧夜、この者達の力になってもらえますね」
どうやらその忍者は朧夜というらしい。
「承知した、報酬の方はこちらに出来高でよろしいな?」
「構いません、出来高は最高で6割、それで構いませんね」
ヒルデの交渉の結果朧夜を借りられる事に。
次は内容の説明だ。
「なるほど、バルディスタ国内に工作員がいるかどうかの調査でござるな」
「ええ、我々は帝都から一つ西隣の小国で待ちます」
「ヒルデって交渉上手ね」
「意外とやるわね」
それにより話は成立する。
朧夜は直ちに里を出てバルディスタの国内の調査に向かった。
「では我々は行きますね、感謝します、ゲンライ殿」
「ヒルデ殿への恩義ですよ、お忘れなく」
とりあえずは協力をこぎつけ、そのまま里を出る。
里を出る際に預けた武器も返してもらえた。
そのあとは調査の結果待ちで帝都の隣の小国のヨルンブルクへ移動する。
そこで宿を取り朧夜の調査報告を待つ事に。
影の存在の忍者。
それは極東の国の他国の諜報を兼ねた政治的な組織らしい。
雇われる事で仕事を誠実にこなし国の情報を手に入れるのだ。
凄腕の密偵と名高い忍者はその世界で暗躍するのである。




