死者に宿る生命
あれからどれだけの月日が経っただろう。
私は死んだのか、悔しい、何もかもが悔しい。
死んだ…それにしては体が軽い…。
私は…生きて…。
「はっ!?ここは…私は…そうだ…あのとき…」
目覚めたそこは不思議な場所。
何やら研究施設のようだ。
「目覚めたかな、騎士のお嬢さん」
そこに白衣姿の子供?が入ってきた。
「あの、私は…ここはどこなの?」
「ここはとある秘密の場所、そしてその場所にある魔王城の研究室だ」
魔王城?この子供は何を言っているのか、それに私は死んだ…のでは?
「それにしてもまさか三年も使うとは、まさに最高の素体だね」
「素体?待って、今三年って…」
あの討伐任務から三年?私は三年も眠り続けていた?
いや、何かがおかしい、私は確かに心臓を撃ち抜かれた。
ではなんだ?私は死んだのか?それとも助かったのか?
「まあ率直に言うと、君は死んだんだよ」
「そう、やっぱり死んで…えっ?」
この子供は確かに私が死んだと言った。
ではなぜ私はこうして話している?わけがわからない。
「私が死んだのならなぜあなたと話しているの?」
「うーん、簡単に言うと死んだ君に生命を吹き込んだってとこかな」
死んだ私に生命を吹き込んだ?ますます意味が分からない。
この子供は見た感じ研究者だ。
つまり私はその研究材料にされた…のだろうか?
「君は適合率が例を見ないほどでね、こうなるまでに三年も使ったよ」
「待って、つまり私は生きる屍…という事なの?」
信じたくなかった。
死んで、それでも生かされるというのか。
でも確かに…胸の鼓動はなかった、心臓は止まっている、なのに生きている…。
「とりあえず服を着なよ、あと君の剣だけど鍛え直したから」
「ええ…どうも…」
とりあえず渡された服を着る。
剣は鍛え直したというらしく、生前のときとは比べ物にならない逸品になっていた。
「さて、魔王様に会わせるからついてきなさい、体は動くね?」
「ええ、不思議と凄く軽いわ」
そのままその子供に連れられ魔王と呼ばれる人の下に連れていかれた。
「ミィア、やっと彼女に術が馴染んで生命が宿ったよ」
「ほう、しかし三年も使う辺り最高傑作と言えるのではないか?」
また子供だ、研究者も魔王も子供、何かの遊びか?
だがそれにしては度が過ぎる、私はその魔王だという少女に問いかける。
「妾はミィア、魔王じゃ、そしてこいつはハイフス、妾の部下じゃ」
「これは遊びか何か?それとも今でも悪い夢でも見ているの?」
その問いにミィアは答える。
「現実じゃよ、お主が死んだのも、三年経ったのも、な」
「やっぱり現実…なら私はなぜここにいるの?」
ミィアは経緯を話してくれた。
「三年前に谷底で死んでるお主を回収した、あとはハイフスが術を施した」
「三年も経っているなら国は…どうなったの?」
その口からは衝撃的な事実が語られる。
「今は世界中で戦争が起こっている、まさに泥沼、世界大戦状態さ」
「そんな…私は…どこへ行けば…」
ミィアはアレイシャに言う。
「別にお主を束縛したりはせぬ、どこへでも行けばいいぞ」
「そんな簡単に言うけど世界大戦状態の世界のどこに…」
ミィアはアレイシャを束縛するつもりはないし、世界を侵略するつもりもない。
アレイシャが自分で決めればいいとだけ言う。
「なら一度国に戻るわ、この目で現状を確かめたい」
「よかろう、装備などは必要ならくれてやるが」
その厚意に感謝し魔力で守りを強化した騎士の正装をもらった。
そのあとはハイフスに連れられ地上への転送装置に案内される。
「行き先はバルディスタ帝国、ここに戻りたいときはこの呪文を唱えてくれ」
「ええ、感謝するわ」
この場所に戻るための呪文を渡される。
そして転送装置でバルディスタ帝国の帝都から少し離れた森に転送してもらった。
「ここは…戻ってきたのね、でも荒れてしまっている、とにかく行かないと」
そうして私は歩き出す。
一度死んだ身だ、その命など今はないがこうして生きて戻ったのだ。
私はこの目で今を見る、その先に血に染まる道しかないとしても。