草原の収入源
ヒルデの足跡を追うアレイシャ達。
前日の日暮れになんとか草原の街へと到着する。
宿で一夜を明かし翌朝からヒルデの事を訊いて回る。
彼女の行方は掴めるのだろうか。
「さて、何か掴めるといいけど」
「でも信憑性は薄い気がするけどね」
「仕方ないですよ、隣の国ですら二年前の話でしたし」
「そうね、だからそれを丁寧に繋げないと」
そうして情報集めが始まる。
とはいえそう簡単に進むはずもなく。
「どうだった?」
「一応二年前にそれらしき人が来てたというのは確かみたいよ」
「あとは少し滞在して動物の世話をしてたとか」
「それでその動物の持ち主に会いにいってみますか?」
その動物の持ち主の下へと向かう事に。
そこはどうやら酪農をやっているこの街ではそれなりに裕福な人のようだ。
「ヒルデさん?そういや二年前に来てたな、食用に出来る動物を教えてくれとか」
「それってつまり一般的な牛とか豚とか以外の肉の確保とかかしら」
主人の話では戦争で国が困窮しているので少しでも安く栄養のあるものを訊かれたとか。
その際にアドバイスしたのが羊や鹿などの肉だったそうだ。
生では当然食べられないもののきちんと調理すれば比較的安く栄養価もあるらしい。
それこそ塩があれば美味しく食べられるそうで、それを教えたそうだ。
ついでに知り合いの名義で肉をバルディスタの倉庫宛に届けて欲しいとか。
そうすれば国民に肉が行き渡りその知り合いからきちんとお金も支払われるそうだ。
以前も聞いたそのヒルデの謎の知り合い。
その知り合いの名義で送っているなら知っているはずなので訊いてみた。
「えっと、ヘーゼルっていう貴族みたいだな、礼状にそう書いてあった」
「ヘーゼル…まさか大貴族のヘーゼル!?」
「それってバルディスタの貴族でも有名な伯爵ですよ、まさかですね」
主人としても草原の貴重な収入源をまとめて買ってもらえて嬉しいという。
それにより戦争中は相場の三割増しで買ってくれているという。
それも支払いはヘーゼルの私財から支払われていたらしい。
「でもヒルデはなんでそんな立派な貴族と…私の家はそんな地位もないのに」
「何かの縁でもあったのでしょうか」
「それよりここで働いたあとはどこに行ったか分かるかしら」
主人の話では最終的に南にあるチガットの国へ向かうと言っていたらしい。
チガット、それはチェンワ国の中にある小国の一つだ。
独自の文化が栄えた国でチェンワ国の本国の管理下にある。
チェンワ国の国土は広くその中の小国の多くは本国と繋がっている。
そしてその小国の多くを管理下に置く事で軍備を強化しているそうだ。
チェンワの首都である南泉はここから馬を飛ばしても三週間はかかる距離らしい。
そしてチガットにはチェンワの南にあるバイランダへの国境がある。
さらにはアレイシャ達が入国したノルスタニアの山をまたいだ隣国でもある。
以前立ち寄った工場の街はそのチガットの国境近くだ。
言うまでもなく大国の領地は広く大国の国境と小国の国境が別に定められている。
ここアウスタリアはチェンワの西端である。
入国したノルスタニアはバルディスタの領地の北部になる。
そして戦争をしているコレアムはバルディスタの西にある大国の中の一つの国。
コレアムは軍事に力を入れていたらしく中規模な国ながら戦争に踏み切れたらしい。
大国であるバルディスタ本国に喧嘩を売ったコレアム。
その真意もアレイシャは気になっていた。
「とりあえずチェンワ国は広い、どこに行くにしても準備はきちんとしろよ」
「ええ、そうしておくわ」
とりあえず情報は聞けた。
ヒルデの情報を求め南へと向かう事になる。
地理上からしてバイランダから東と南は海になる。
そこからは西に進みバルディスタの領地に戻るか船で海を渡るかになる。
なんにしても今は南へと向かう事で話はまとまった。
チガットへ向かい恐らくはバイランダに行く事になるだろう。
バイランダからバルディスタへ戻る際も小国の領地を抜けねばならない。
アレイシャ達は世界の大中小様々な国をヒルデを求め訪ね歩く事となりそうだ。




