草原の街へ
遊牧民の宿営地で一夜を明かしたアレイシャ達。
朝は早く朝食もそのままご馳走になる。
そのあとは適度に体をほぐし草原の街へ向かう事に。
遊牧民から保存の効く食べ物を少し分けてもらい出発である。
「さて、それじゃ行くわよ」
「他の部族同士の争いにはなるべく首を突っ込まない方がいいですよ」
「ええ、覚えておきます」
「感謝するわね、それじゃ、出発よ!」
そうして馬を駆り草原の街へ向かい走り出す。
この広大な草原を駆け抜けるのは風を切るのがとても気持ちいい。
「それにしても本当に広大な草原なのね」
「そりゃそうよ、チェンワ国の中のアウスタリアだもの」
「草原の国とは聞いていましたが想像以上ですね」
「こう何もない草原だと遠くもよく見えるし」
草原の街へは全力で走れば夕方には到着出来るという。
とはいえ何があるかが分からないのが世の常である。
「はあっ!」
「騎士の仕事でも馬は使うから慣れたものよね」
「そうね、アレイシャもセクネスも」
「こっちで合ってるのですよね?」
エロイーズは間違いないという。
北東にあるその街へ向けて馬を走らせる。
そうして馬を走らせていると世話になったのとは別の遊牧民の宿営地を見つける。
ずっと走っていても疲れてしまうため休ませてもらえないかと持ちかける。
「休ませて欲しい?それは別に構わないが」
「ありがとう、少し飲み物でも分けてもらえると嬉しいんだけど」
その遊牧民に飲み物を少し分けてもらう。
「そうだ、外から来たのなら少しいいものを見ていくか?」
「いいもの?何かしら」
話では子山羊が生まれるという。
その出産を見ていかないかと言われたのだ。
「そうね、なら見ていくわ」
「少し興味もあるのよね」
「そうか、もうすぐ生まれるらしい、こっちに来てくれ」
そうして連れられ山羊の下へ。
そこでは他の遊牧民が苦しそうな山羊を落ち着かせていた。
「苦しそうね」
「もうそろそろ生まれるんだ、命の誕生を見ておくといい」
山羊が苦しそうにその鳴き声を上げる。
遊牧民がそれを落ち着かせる。
そして山羊の子供がその顔を覗かせた。
「山羊の赤ちゃんが…」
「辛そうですね、でも命が生まれるとはこういう事ですか」
「本当に苦しそう、あんな小さいところから出てくるんだものね」
「命とはこうやって生まれるものよ」
そうして無事に山羊の子供が生まれた。
それはまだ足元もおぼつかない様子だ。
とはいえこれが命が生まれるという事なのである。
「そうだ、せっかくだしこの子山羊に名前をつけてくれないか」
「いいの?責任重大ね」
「名付け親になるんですか、どういう名前がいいのでしょう」
そうして少し考える。
出た名前とは。
「ならオネットっていうのはどうかしら」
「オネット…いい名前じゃないか、よし、この子はオネット、それで決まりだ」
「アナスティアって意外といい名前つけるのね」
「意外ととは失礼なのでは」
とりあえず素敵なものを見せてくれた事にお礼を言う。
そして改めて草原の街へ向けて走る事に。
この草原を全力で走れば少し時間を食ったとはいえ日が落ちる前には着けるそうだ。
それでも命の誕生を見られたのはいい経験だろう。
「でも命ってああやって生まれるのね」
「そうよ、人間もそうだけど痛みに耐えてそうやってね」
「エロイーズはそういうの知ってるのね」
「シスターなのでもう少し純粋なのかと思っていました」
エロイーズもそれに対し少し文句を言う。
とはいえ教会のスパイである以上教育は受けているのだろう。
そんなエロイーズの素性はセクネスとアナスティアには今は黙っておく。
彼女に利用価値があるのを知っていて承知の上で連れているのだ。
「もう少しよ、このまま真っ直ぐ」
「ええ、はあっ!」
「日が傾き始めていますね」
「この様子だと聞き込みは明日になるかもしれないわね」
そうして馬を走らせ日が落ち始めた辺りで街に到着する。
とりあえずは宿を確保し聞き込みは明日に改めてする事にした。
この地でヒルデは何をしていたのか。
アレイシャはヒルデからなんとしても話を聞きたいのだ。
その足跡を追う旅はまだ終わりそうにない。




