裏切りの影
ヒルデの足跡を追い北東の国への国境を目指すアレイシャ達。
国境に行く前に王都に寄り知り合いに会ってから行こうと考える。
王都に降り立ったアレイシャ達はその知り合いの家へと向かう。
だがその不穏な影に誰も気づく事はないのである。
「失礼します、ローベルおじ様はいますか」
「ローベル様ですか?少しお待ちを」
「ここはアレイシャの父君が親しかったという…」
「話ぐらいは聞いてくれるかしら」
それから少ししてローベルが姿を見せる。
彼はアレイシャが生きていた事に驚くものの安心した顔をする。
「とりあえず家の中へ入ってくれ、外ではあれだろう」
「はい、失礼します」
「…きな臭いわね」
「エロイーズ?」
とりあえずは家の中へと通される。
メイドがお茶と簡単なお菓子を出してくれる。
「それにしても死んだと聞いていたから本当に驚いた、よく無事で」
「いえ、ですがおじ様は家の事を知っていたんですよね」
「そうね、話ぐらいは伝わってるはずよ」
「そういえば亡くなられた日に直接来ていましたよね」
どうやらアレイシャの両親が亡くなった日に立ち会っていたらしい。
ローベルはそんなアレイシャの両親の無念を悔しそうに語る。
「すまないね、でも生きていたというだけでこんなに嬉しい事はない」
「ええ、それで少し話を聞きたくて」
「そうですね、情勢とかも知っているはずですから」
「戦争が起こってその直後のバルディスタとかね」
お菓子をつまみつつローベルの話を聞く。
だがアレイシャはエロイーズが気になっていた。
エロイーズはお菓子にもお茶にも一切手を付けない。
とりあえずはローベルは今に至るまでを話してくれた。
それは戦争による悲惨さと泥沼化した現状だった。
だが異変はその直後に起きる。
エロイーズは手洗いだと言い退室していた。
「さて、では彼女達を引き渡すか」
「ふーん、やっぱそんな事だろうと思ったわ」
アレイシャ達は恐らくお茶かお菓子に仕込まれた薬で眠っていた。
だがエロイーズはそれを知っていたかのように席を外したのだ。
「…君は何者かな?」
「寝てるし喋ってもいいか、私は中央教会の工作員、そして監視者よ」
それは中央教会の秘密でもある。
エメラダ教の総本山を隠れ蓑としたスパイ養成組織が中央教会。
世界中にスパイを送っているのである。
「中央教会の、なら私を殺すかな?」
「そうねぇ、無駄な殺しはするなって言われてるの、だから、拘束する!」
エロイーズの早撃ちが炸裂する。
ローベルの右頬を銃弾がかすめその直後にエロイーズがローベルを叩き伏せる。
「ぐっ、流石は…か…私をどうする気かな…」
「あんたは本部に引き渡す、戦争に便乗してやった事、きちんと罰するわ」
ローベルは観念したのかメイドに抵抗を禁じるように言い素直にお縄についた。
「そういう事ね、エロイーズは怪しいと思ってたけど、まさかスパイなんて」
「アレイシャ!?あんた眠ってたんじゃ…」
生きる屍となったアレイシャに睡眠薬など効かない。
眠ったふりをして全て聞いていたのだ。
「…今は聞かないわ、でもそのうち話してもらう」
「それを知った上で私を連れていくの?裏切るかもよ」
だがアレイシャはエロイーズの価値を理解している。
だからこそスパイだろうと仲間として連れていくのだ。
「あんたも黒いわねぇ、いいわ、ならあんたに従ってあげる」
「それでこそよ、セクネスとアナスティアは担いでいくわよ」
そうしてローベルの後始末はエロイーズの知り合いという人に任せる。
そのままセクネスとアレイシャを担いで鉄道の駅に向かう。
そこで鉄道の到着を待ちそれで国境へ向かう。
二人もその待ち時間で目を覚ましたが状況はあとから説明する。
「さて、鉄道の到着まで時間もあるし飲み物でも買ってくるわ」
「私も行く、二人は待ってなさい」
「何があったのかしら」
「さあ…」
そしてそこでオルソンに出会う。
オルソンはアレイシャ達にお礼を言い機会があればまた頼むと言う。
そして足早にオルソンは去っていった。
彼が自分の名義を使えない理由をなんとなく察した二人だった。
そのあとは鉄道に乗り国境へ。
次の目的地は北東の国アウスタリアである。