大きな商売の街
アレイシャ達はヒルデの足跡を追い商業都市を目指していた。
そこでヒルデは何をしたのか。
そしてお金を貯めて何をするのか。
それも知るべく鉄道に揺られていた。
「それにしてもこの国は鉄道とか航空網がしっかりしてるのね」
「まあ工場とかも多いしね、運搬にそれだけ力を入れてるのよ」
「他国の鉄道なども造られるのはこの国ですからね」
「今までのを見てもそれが分かるわよね、大した国よ」
そうしているうちに鉄道は商業都市の駅に到着する。
一旦その駅で下車し商業都市での聞き込みを始める。
「それにしても凄い街ね」
「そりゃそうよ、この国の商売の総本山だもの」
「でも他国にもありますよね、物流やここみたいな商売人の集まる街は」
「あるにはあるけどね、でもこの国はやっぱり凄いって思っちゃう」
そうしてその規模に驚く。
隣国は戦争中であり本来なら国境は閉鎖されている。
それをエロイーズの無理矢理なやり方で抜けてきたのだ。
北東の国に向かう際もどうやって国境を越えるか。
バルディスタとコレアムは国境封鎖されているので入国は困難。
それ以外の国も戦争の難民などの問題から検問が強化されているとエロイーズは言う。
「一応抜けられないわけじゃないのよね?」
「抜けられるには抜けられるけど厳しく調べられるわよ、それだけ」
「困っちゃうわね」
「それが戦争中という現実ですよ、本来ならこの国にも入れなかったのに」
そればかりはエロイーズに感謝である。
とはいえエロイーズの素性はやはり心の隅では気になっている。
本人曰く中央教会から派遣されたという事らしい。
中央教会は最大宗派のエメラダ教の総本山でもある。
他にも大宗派の宗教はあるもののエメラダ教はその規模が違う。
「とりあえずヒルデについて調べましょ」
「そうね、酒場のマスターとかも当たりましょ」
「中央教会、ですか」
「どうにもきな臭いものよね」
そうして酒場へ向かう。
酒場でマスターにヒルデについて訊いてみる。
すると鉱石などの換金をしていたという話が聞けた。
お金を貯めていたというからには現金にしていたのだろう。
ついでにパン屋で少し働いていたともいう。
そのパン屋の場所を聞き出す。
行き先は王都を目指していたそうだ。
王都への中継地である流通都市に寄るとも言っていたそうだ。
「流通都市、この国から他国への輸出が行われる街ね」
「王都からはそんな遠くないんですけど、物流は全部最終的にそこに集まるんでしたか」
「ならとりあえず王都へ行く前にその流通都市へ行ってみましょう」
「そうね、少しでも情報が欲しいし」
そういう事で一致する。
流通都市に向かう前にそのパン屋へと行ってみる。
「いい匂いね、お腹が鳴るわ」
「あの、すみません」
「ん?なんだい?冷やかしならお断りだよ」
「少し訊きたい事があるのよ」
ヒルデについて話してみる。
「ああ、そういえば二年前に働いてたね、そんな人が」
「やっぱり…」
パン屋の主人曰く日持ちするパンをお礼として要求したそうだ。
そのため働く事の報酬でそのパンを渡したという。
「ふーん、そうだったの」
「ああ、ただ長旅になるって本人は言ってたよ」
「長旅…だとしたらまだ終わらなさそうね」
とりあえずお礼を言う。
とはいえ何も買わないのも失礼なので、パンをきちんと買う。
広場で軽い腹ごしらえでそのパンを食す。
だがアレイシャはその食事で体の異変に気づいていた。
「アレイシャ?食べないの?」
「あ、ええ、食べるわよ」
「心配なのは分かるけどきちんと食べないと駄目よ」
アレイシャもそれに返事を返す。
だがそれは以前から感じていたもの。
食べ物を食べても味を感じないという事だ。
やはり生きる屍となった事の弊害なのか。
それだけでなく食べても満腹感が得られない。
それどころか食事を摂らなくても平気なようだ。
今は誤魔化しているもののいつかは知られるだろう。
やはり自分は死んだのだと改めて感じていた。
パンを食べ終わった後流通都市行きの鉄道のチケットを買いそれに乗る。
ヒルデに追いつけるのはまだ先になりそうである。