賊の理由
銀龍の祠を目指しさらに山の高い場所を目指すアレイシャ達。
山に登るのはもう慣れたものである。
そんな中街の人が言っていた言葉も気にしていた。
賊は本当に出るのだろうか。
「にしても賊って本当に出るの?」
「街の様子を見ても下山している様子は見受けられませんでしたね」
「つまり山に登ってくる人だけを襲ってるのかしら?」
「どうかしらね、山だから当然山賊なんだけど、そんな困ってないとか?」
なんにしても賊には警戒しつつ山を登る。
だが賊と言えば戦時中の事も思い出して複雑ではあるようだ。
「なんで賊って生まれるのかしら」
「簡単ですよ、生きるためにそうならざるを得ないだけの事です」
「でもそれなら仕事探せばいいんじゃないの?選り好みしなければ仕事はあるわよ?」
「そうね、でもそんな選り好みしなくても仕事がない場合もあるのよ」
エイルの言う事こそが現実なのだろう。
仕事は選ばなければいくらでもあるとはよく言う。
だが例え選り好みしなかったとしても雇ってもらえる確証はないのだ。
その結果賊になるしかない人達が生まれるのだと。
「戦時中に国の騎士が賊に堕ちてたけど、難しい問題よね」
「選り好みだのなんだの言ったところで仕事がある保証などないという事です」
「ならなんで賊は賊になったの?仕事がそれでもなかったから?」
「別に綺麗な仕事だけとは一言も言っていませんよね?」
シファのその指摘。
仕事は綺麗な仕事だけとは限らないという事だ。
危険な仕事や裏の仕事はそのリスクが高い分報酬も高い事が多い。
選り好みしなければというのはそういう仕事も含めて選り好みしなければという意味だ。
「それにしても賊なんて出ませんね」
「下山してるとも思えないし」
「確か祠は上にある遺跡よね」
「それなら賊に遭遇しても不思議ではない気がしますが」
そんな少し引っかかる事を考えつつ山を登る。
すると道中に木造の少しだけ立派な小屋を見つける。
賊のアジトか何かとも考え中だけ見てみる事にした。
その小屋に入ってみるとそこには大量の金銀財宝が乱雑に置いてあった。
略奪したのかとも思ったがそれらには血などは一切付着していない。
強奪や盗みで手に入れたものではなさそうだ。
「うわっ、誰だ?侵入者?」
「あなたは…賊かしら」
「ですが見た感じ賊というより冒険家では?」
「どういう事なのでしょう」
その男は明らかに賊には見えない。
一応話だけ聞いてみる。
「うーん、一応山賊なんだけど人を襲うとかは考えた事もないなぁ」
「ではこの金銀財宝は?」
「血などが確認出来ないので強奪ではありませんよね」
「結局どういう事なの?」
山賊を自称する男は元々冒険家の仲間とこの山に宝探しに来たらしい。
そして本当にこの大量の財宝を見つけてしまったという。
それで少しボロいがこの小屋に置いているらしい。
同時にこの小屋をアジトにして他にも財宝を探しているとか。
「要するにスローライフをしてるって事なのかしら」
「たぶん…山賊って言われてるけど僕も仲間も略奪も襲撃もした事ないもん」
「なによ、じゃあ噂が勝手に独り歩きしただけなのね」
「なら問題はなさそうですね、我々は上の遺跡に向かいますので」
そんなわけでその男と別れさらに上を目指す。
賊の理由は勝手にそう扱われているだけという事のようだ。
「なんか拍子抜けしたわね」
「街の人が勝手にそう扱ってただけですか」
「でもあの金銀財宝は凄かったわね」
「あれ全部換金したら恐らく死ぬまでニート生活して生きられるわよ」
エイルが言うその金銀財宝の価値。
彼らは価値を分かっているのかと思う。
金銀財宝は本当にあったというケースでもあるのが悲しさか。
世の中には本物の富が確かにあるらしい。
「遺跡までもう少しですね、さっさと行きましょう」
「賊も結局噂でしかなかったしね」
「噂話って怖いって分かったわね」
「噂が独り歩きする恐ろしさも分かりましたよ」
そうして歩いていると遺跡が見えてくる。
祠は遺跡の中にある。
次は遺跡探索である。