憎悪の矛先
水龍の祠の調査を終えたアレイシャ達。
そこで水龍の少年と出会い言葉を交わした。
そんな中またしてもあの気配を感じる。
あの白フードが現れたのだろうと、そこへ向かう。
「お前が話に聞く天使様という奴だな」
「水龍か、神に反逆しようという愚かな追放者」
「それよりあんたの正体をいい加減に吐いてもらうわよ」
「そのフードを力ずくで剥ぎ取ってもいいのですが」
天使様は軽く笑ってみせる。
人間風情にそんな真似が出来るものか、と。
「甘く見られたものですね」
「とはいえこいつの自信は確かなものだ」
「そうだな、以前銃弾を軽く回避したのを忘れたか」
「それは…」
以前銃弾を軽く回避してみせた白フード。
つまり彼女は人間離れした能力を持っている事になる。
それは以前話した滅びた街に関係しているのか。
話をもう少し聞いてみる。
「お前は宗教を憎んでいると聞いた、それはお前の過去に関係しているのか?」
「そうだ、私は宗教を許さない、信仰を語り裏で悪行を働く奴らを」
「カルト宗教なんかはそれの典型ですけどね、ただ大宗派の闇はもっと深いと」
「あなたが言ったエメラダ教の事もあなたに関係しているの?」
エメラダ教が裏でやっている事の数々。
スパイの育成や例の滅びた街で行われていた何か。
それらも含め憎悪の矛先が宗教に向いているのだろう。
だからこそ信仰を語る偽物を許せないのだと感じ取る。
「なんにしても私とて無意味に争いはしない、だが敵対するなら滅ぼすまで」
「要は売られた喧嘩は高く買い取ってくれるという事ね」
「別に喧嘩を売るつもりはないですよ、勝てるとも思えませんし」
「神である我らにも含みを持たせる辺り相当な自信があると見るぞ」
天使様の不敵な自信。
その自信は何かしらの裏打ちされたものがあるのか。
「なんにしても私は今は傍観するのみ、喧嘩ならいつでも買ってやる」
「そう、なら喧嘩の安売りはやめておくわ」
「我々とて馬鹿ではないからな」
「そのフードを剥ぎ取ってやりたいけど、勝てる気がしないしね」
白フードはそれだけを言い残し姿を消した。
今は傍観するのみ、それは勝てる自信があるのだろう。
水龍もその事は仲間に伝えておくと言いそのまま去っていった。
アレイシャ達は一旦海溝を出て予定通り休息という名のバカンスをする事にする。
来た道を引き返し人造生命体達の集落に戻る。
そこで通り抜けようとした際に呼び止められた。
「あの、少しいいでしょうか」
「何かしら?」
「あなた達に頼みがありまして、聞いていただけますか」
「聞くだけ聞きますが、無理な要求は突っぱねますよ」
人造生命体の老人は自分達の仲間の一人を外に連れていって欲しいと言う。
仲間が増える事は今は目立たぬ必要もないわけなのだが。
「うーん、まあ秘密の行動とかしてるわけでもないし…どうするの?」
「戦時中なら目立つ行動は避ける事を優先ですが、今は特に問題はないかと」
「それでは…」
「増えすぎるのは困るけど、一人ぐらいならいいわよ」
その言葉に老人は安堵したのかホッと一息である。
そしてその連れていって欲しいという人を呼んでくれた。
「彼女です、シファといいます」
「はじめまして、シファです」
「…メイド?」
「こんなところで暮らしていたのになぜメイド服…」
なんにしてもこのシファを連れていって欲しいという。
一応それを了承し、シファを仲間に迎え入れる。
「彼女の事は頼みました、いろいろと体験させてあげてください」
「ええ、分かったわ」
「よろしくお願いしますね」
「では我々はそろそろ行きます、みなさんもお元気で」
そうしてシファを加えて海溝から外に出る。
そのあとは陸に上がりキラビスの近くの街へ移動する。
そこで休息という名のバカンスである。
飛行船は平気だと思い、宿を確保し数日の滞在だ。
「では明日からは自由ですよ」
「出発は二日後よ、それまでは休んでね」
「分かったわ、シファも少し話がしたいし」
「ではそれまでは各自自由ですね」
そんなわけでキラビスで少しの休息である。
次の信仰の地についても一応調べる事に。
休息の後次の地へと向かう事になる。