歴史と年数
龍の神に縁のある地を巡るアレイシャ達。
今は黄龍に縁のあるチェンワ国に来ている。
この国は外部からの入国こそ出来るものの、独裁国家である。
まずは国が管理するその地への立ち入り許可をもらう事に。
「ふむ、歴史研究で黄龍に縁のある地への立ち入り許可が欲しいですか」
「ええ、駄目でしょうか」
「制約などがあるなら我々はそれに従います」
「あくまでも歴史研究としての資料が欲しいので」
国の担当者は立ち入りの許可は出せると言った。
ただしこちらの出す条件を守る事が大前提である、とも。
「立ち入り自体は明日にでも許可を出します、ただし現地民への接触は禁じます」
「分かりました、ではそれで飲みます」
「現地民に接触しなければ調査自体は構わないのですね」
「なら明日にでも許可が出次第そこへ向かわせてもらいますね」
そうして一応は許可は出してもらえる事となった。
だが現地民への接触は禁じられた。
その理由としてはその土地は黄龍への独自の信仰に関係しているという。
基本的にこの国は独裁という事もあり、国のトップが宗主様として崇拝される。
それにより外部から宗教などが入る事に対してとても敏感なのだ。
そして黄龍を信仰する土地という事もあり、その地は国の中でも隔絶されている。
それは国内における弾圧であり文化や歴史を破壊したいという思惑を感じさせる。
外国からの目を気にしているからなのか、隔絶という事で押さえ込んでいるのだ。
「この国って独裁国家なのよね、現地民への接触を禁じたのもメンツのためよ」
「そうですね、少なくとも現地民に変な事を吹き込まれたくないのでしょう」
「この国の闇が見えた気がするわね、怖いものだわ」
「この国は国の歴史と大陸の歴史が別に存在するからこそよね」
チェンワ国の歴史、それはこの名前の国が出来たのは最近の話らしい。
チェンワ国という名前の国が出来たのは大体約80年前ぐらいだという。
それ以前はチェンワ民国という名前で、それより前も別の名前の国だった。
歴史の中で破壊を繰り返し続けた結果この国は何度も文化を壊しては創りなのだそうだ。
そのせいもあってかこの国には歴史的な建造物や書物が少ないという。
破壊と創造を繰り返し繁栄と滅亡を幾度となく繰り返した歴史がこの国にはある。
ヒルデやエイルもその歴史はある程度は知っている。
そしてこの国の歴史に必ず出るのが裏切りである。
国民もそんな民族の血だけは残っているのか、打算的な国民性らしい。
民族も文化も破壊しては創造した歴史がこの国の歴史である。
国の歴史は100年にも満たないが、大陸の歴史は4000年近くある。
そんな歪な歴史を持つ国がこのチェンワ国である。
「でもこの国って土地だけは世界トップレベルに広くて人口も本当に多いのよ」
「その結果が歴史を軽視し都合の悪い歴史を葬った果てにある現在です」
「嫌なものね、この国って怖いわ」
「でも文化に限っては料理が世界三大料理の一つになるぐらいなのよね」
そんなチェンワ国の歪さは国と大陸の歴史の歪みにも表れている。
強欲なまでに侵略や略奪を繰り返しているのもある。
この国のトップは代々野心家が多いからこそである。
そして暗殺を極端に恐れるのも権力と腐敗の闇がこの国にはある事を感じさせる。
「なんにしても今回の黄龍を信仰する土地は国にとって不都合なのでしょうね」
「だから現地民への接触を禁止する条件を出したと」
「現地民以外の国民は別に制限されてないし、そういう事よ」
「結局は異物が入り込む事を極端に恐れているのよね、独裁だけに」
異物が入り込む事を恐れているというエイルの言葉。
それは指導者が自分に刃を向けられる事を極端に恐れる事の表れらしい。
「なんにしても今は国民に接触しても平気ですよ」
「許可をもらったらさっさと行きたいわね」
「せっかくだから本場の味が食べたいんだけど」
「それもいいですね、せっかくですしそうしますか」
そうして許可が出る明日の前に本場の味を堪能した。
その料理の美味しさは本物だったそうな。
黄龍を信仰する土地はこの国の闇に触れる事でもあるのだから。