黒き龍の神
遺跡の深部から撤退しようとしたとき。
ゼスフィがその気配を感じ取る。
何者かがそこにいる、それは今までにない恐怖。
アレイシャはそれがどこかで感じたもののように感じていた。
「あなたは…龍の神の一体ですね」
「いかにも、我は黒龍神、そこの女は面識があるのではないか?」
「私?まさか…」
「どういう事?面識ってなんの事よ」
その黒龍神はそう、あのとき討伐を国から命じられたあの黒竜だ。
報告までは聞いていないが討伐は成功したと思っていた。
「それで、私を食い殺しにでも来たのかしら?」
「今はそんなつもりはない、ただ一つ忠告する、我らに関わるな」
「そうすれば見逃してくれるとでも?」
「そんな都合のいい話があるのかしら」
黒龍神は言葉を続ける。
我らの目的に首を突っ込まなければこちらも手を出す事は決してしない。
だが対峙するというのであれば龍の神の全てを以て撃滅すると。
死を受け入れ対峙するか、我らを忘れ平穏を享受するか、それはお前達で決めろと。
「…別に戦おうというつもりはないわ、でもあなた達の事に興味はある、ではダメ?」
「知識や興味というのは人間の性なのですよ、敵対せずともね」
「そうか、ならばそれは許そう、ただし敵対する姿勢を示せば容赦はしない」
「意外と優しいのね、もっと人間を憎んでいるかと思っていたわ」
黒龍神曰く人間への憎悪はないという。
ただし目的のために人間を利用する事は否定はしないそうだ。
「なら訊くけど目的って何?追放した奴らへの復讐かしら」
「奴らには正攻法で勝てぬ事は理解している、ならばそれを弱らせるまで」
「弱らせる?神の力を削ぐという事ですか?」
「そんな事が出来るものなの?にわかには信じがたいけど」
黒龍神の話では神の力とは信仰心がその力を支えているという。
つまり龍神達はその信仰心を希薄にし、神の力を削ごうという事のようだ。
「信仰心が神様の力ならつまりあなた達への信仰心を高めれば?」
「当然我らの力は高まり奴らの力は弱まる、神とは信仰心がその力の源泉だ」
「だとしたら…」
「ねえ、ならこっちからも一つ訊くわ、天使様と呼ばれる謎の存在をご存知かしら」
黒龍神はそれに対し首を傾げる。
我らは少なくとも天使とは結託していないと。
だが何者かが自分達のために暗躍している可能性を指摘する。
つまり龍神達を信仰する何者かが龍神達の知らない場所で何かをしているのでは、と。
その天使様と呼ばれる存在については龍神達も今知ったのだと認める。
そして一つの提案を持ちかける。
「ならばその天使様と呼ばれる存在はそっちで勝手に処理しろ、一応我らも調べはする」
「ふーん、そこだけは妙に理解を示すし言葉を濁すのね」
「ですが龍神達すら把握していないその天使様と呼ばれる存在は結局謎のままですか」
「神でも存じぬ事はあるのですね、意外でした」
黒龍神は神とて全知全能ではないのだときちんと認める。
だからこそ天使様の事は気になるのだと。
なんにしても龍神達は干渉しなければ自分達も手は出さないと約束する。
調べたければ勝手にすればいいとだけは言ってくれた。
ただし敵対する姿勢を示したときは全力で潰しにいく。
それについては龍神の個々の判断においてそれを決めるとも。
「では伝える事は伝えた、我らに対して刃を向ければ我らもその牙を剥く、さらばだ」
「思ったよりも温厚なようですね、そこも想定外です」
「ですが龍神達も把握していなかったとなるとそれこそ想定外ですよ」
「関係がありそうなのはエメラダ教?信仰心となると大宗派が絡みそうね」
とりあえず話を整理すべく外に出る事にした。
どうにもしこりが残ったままなのは否めない。
天使様の謎。
そして龍神達は復讐のために信仰心を利用しようとしている事。
「私はここで失礼します、それでは」
「本当にレザースはあれよね」
「なんにしても情報の整理です、帝都に戻りましょう」
「あたし達にもきちんと説明してよね」
そうして一旦帝都に戻り情報を整理する事に。
天使様、そして龍神達の謎と目的。
謎が深まった事は確定なのであった。