名もなき龍の神
教会の地下での戦いから夜が明けた。
アレイシャ達はそこで聞いた名を奪われ追放された龍の神について考える。
ゼスフィ曰くその龍の神は神の逆鱗に触れたらしい。
そうした結果地上に追放されたと言うが…。
「結局その龍の神ってなんなのよ」
「昔に神の世界で知と力を兼ね備えた武神の一種なんです」
「そしてそれが名前を奪われ人間界に追放された、と」
「天使様っていうのはその龍の神の事なのかしら」
だがどこか引っかかる。
龍の神が天使を名乗り人間を利用しているのか。
「結局今までの事も含めて目的が見えないわね」
「人間界をめちゃくちゃにしてやろうという感じは受け取れませんからね」
「それは私も感じてた、寧ろ混乱、引っかき回してるような」
「ええ、多分目的は別の何かなのでしょうね」
目的は別の何か、それは追放した神々への復讐なのか。
それとも別の何かしらの目的があるのか。
ゼスフィもそれだけが引っかかっていた。
その天使様は何かを探している?
そして本当に龍の神自身が天使様なのか。
少なくとも天使様本人の他に別の仲間もいる、そう感じ取っていた。
「今回の一件、敵は龍の神だけではないかもしれませんよ」
「つまり人間以外の賛同者がいると?」
「そうなったら厄介極まりないわね」
「でも肝心の龍の神ってそんな強いのかしら、一応神様だし」
ゼスフィ曰くその龍の神は全ての龍の頂点に立つ金龍なのだという。
金龍の強さはそこらの下等な龍とは比べられないぐらい強いそうだ。
少なくとも金龍に襲われれば国の軍隊程度なら三分で壊滅するらしい。
人間に太刀打ち出来るとかそういうレベルでないのが頂点に立つ金龍らしい。
「金龍…そんな龍も存在するのね」
「ええ、龍の最高峰が金龍、その下に銀龍、銅龍というものがいます」
「銀龍は噂に聞いた事はあります、ですが銅龍というのは初耳ですね」
「ゴールドドラゴン、シルバードラゴン、カッパードラゴン、普通に強そうね」
その最上位の三龍はいずれも単騎で国を壊滅に追い込める強さらしい。
そしてゼスフィが言うには銀龍と銅龍も金龍について地上に下りたという事。
神の世界からはその後も龍の神達が金龍に付き従い地上に下りたという。
つまり龍の神はほぼ全ての存在が地上に下りているという事になる。
下位の存在である赤龍や青龍程度なら人間でも戦えなくはないらしい。
だが上位の黄龍や聖龍クラスになると強さは跳ね上がるという。
「仮にその龍の神、金龍が天使様なら厄介ですよ」
「邪神の力って言ってたけど、そんな力を与えられるのかしら」
「龍というのは知も力もとても優れているので出来なくはないと思います」
「だとしたらやっぱりその金龍が天使様?」
それでも引っかかるものはある。
力を与えている存在自体は金龍ではないのではないか、と。
龍の神の他にも何かしらの協力者がいる。
そう考えた方が辻褄が合うのだ。
少なくともその方が納得のいくケースを今まで見てきた。
黒幕の可能性は高いが力を与えているのは別の誰か、だと。
「ただ天使様を名乗る辺り、神の世界に汚名を着せるつもりなのかしら」
「その可能性はあります、堕天した天使は永久追放ですし天使は神のしもべですから」
「その天使に悪評を植え付けるって事ですかね」
「人間の天使へのイメージを悪くする、という事?」
要するに信仰心を薄れさせようとでも言うのか。
この世界には最大宗派のエメラダ教を始め神を崇拝する宗教はいくつかある。
それが狙いだとしたら人間の心を動かそうとしているのか。
今までの相手がそれを出来ていたかは別ではあるが。
「なんにしてもおかしな点はあります、少し様子を見ないとなりません」
「そうですね、今の時点では情報が少なくて確定には至りません」
「それは今後ね、今日はとりあえず休みましょ」
「観光に行きましょうか、せっかくだしね」
そうしてそれについてはもう少し考える事にした。
今後もそれを語る相手は必ず現れる。
天使様の正体はその金龍なのか、今はその実態は掴めないのだから。