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ラグシルの街へ

街の近くまでレイナを乗せて歩いてきたアルスはレイナをそっと下ろし、ローブを頭に被ってから人化する。

身体がみるみる小さくなっていき、レイナの目の前に現れたのは、白銀の髪、空を思わせる瞳の色、漆黒のローブを羽織った少年だった。


レイナは驚きのあまり目を丸くして固まってしまっている。


そうまじまじと見られると恥ずかしい。

どう話しかけたらいいのだろうか。初めまして?それともよろしくか?


どう声を掛けようか考えていると、アルスより先にレイナが声をかける。


「シロ、なの?」


こくりと頷いてみると、レイナは怖がることもなく容姿が変わったアルスを見て楽しげにぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「わぁ、すごいねシロ!変身出来るんだ!シロはすごいドラゴンさんなんだね。あ、じゃあお話しも出来るの?何か話してみて!」


「え、あ、こんにちは?」


とっさに出た言葉がこんにちはだった事にアルスは恥ずかしくなり、フードを深く被る。


これだけシロシロ言われて今さら本当の名前はアルスだとは言えないな。

まぁ、まずは今後の事を伝えないと。


レイナと同じ目線になるようにしゃがみ込むと、レイナは不思議そうにアルスを見つめる。


「君をネーベルフォレストへ送り届ける。

お父さんとお母さんは、その・・・」


「お父さんもお母さんもいるの?」


レイナの不安そうな表情を見て、アルスは言葉を詰まらせる。

両親は亡くなったなんてこの子に言えない。


「・・・先に帰っているはずだ」


笑顔で答えると、レイナは安心したのかすぐに明るさを取り戻し、早く行こうとアルスの手を引っ張る。

ズキズキと痛む心を抑え込みながらアルスは街へと向かうのだった。




もしかすると帝国軍が俺を捜しているかもしれない。ここはガブルヘイム帝国の領土ではないはずだがフードを深く被り直しておこう。


高々とそびえ立つ街の門が二人を迎え、門の両端には鎧を着た兵士が怪しい人物がいないか目を光らせていた。

アルスは顔が見えないように顔を背けると、それを不審に思った兵士が近づいてきた。


「すまないがフードを取ってくれないか。そう深く被っていると顔が見えんし、やましい事があるのかと思ってしまう」


確かにそう思われるのは仕方がないが、王子だと正体が知られるのは避けたい。こういう時はお金でも握らせておけば見逃してくれるのだが、そんな物持っているはずもなくアルスがどうしようかと考えるとレイナが声を上げる。


「シロは怪しくないよ!

だってレイナを助けてくれた優しいドラむぐぅ!?」


ドラゴンだと言おうとしたレイナの口を慌てて口をふさぐ。


ばかっ、それはもっとバレちゃ駄目な奴だ!

ドラゴンだと知られたら街へ入るどころか討伐なんて事も有り得る。


チラッと兵士を見ると、どらむぐ?と言いながら首を傾げていた。

バレていないようだ。

アルスは安堵し、念話でレイナに話しかける。


『ドラゴンだって知られたらみんなが恐がるから、俺がドラゴンなのは秘密だ』


レイナがコクコクと頷いたので口から手を放す。


相変わらず兵士は道を塞いでいる。

どうしようかと思っていたら、後ろから声をかけられた。


「ちゃんと辿り着いていて良かったわい。この子がハピュの少女か、可愛いのぉ」


振り返るとそこには緑色の髪に同じく緑の瞳の男性が眩しい程の笑顔で立っていた。

この男性には初めて会う気がしないと言うより気配と話し方ですぐに分かったが、本当に本人なのだろうか?

確認する為に男性へと声をかける。


「ラグシルド、なのか?」


「べ、別に心配になって来たんじゃないからのぉ」


頬を赤く染めている姿をみて唖然とするアルス。

ラグシルドの照れる姿を見ても誰も得しないし、何より気持ち悪い。

話題を変えるようにアルスはラグシルドの容姿について話す。


「想像していたよりもなんて言うか、その、若いな。想像だと髭を蓄えた老人だったんだが」


「人を話し方で判断するとは失礼な奴じゃな」


「そのじゃ、とかのぉ、とか年寄りみたいな話し方するから」


「これは昔からじゃ!」


二人が仲良く話をしているところを見た兵士は剣を鞘に収め一礼する。


「ラグさんのお知り合いでしたか。それは失礼しました、どうぞ」


思っていたよりもすんなりと街へ入ることが出来てしまった。この街でラグシルドは信用されているようだ。


「わしはよくここに来るからの、この街ではラグさんと呼ばれてておる。

で、アルーー」


慌ててシーッと指を立てると念話を使ってラグシルドへ語りかける。


『レイナの前ではアルスと呼ばないでくれ。レイナは俺の事をシロというドラゴンだと思っているんだ』


『ほほう、なるほどのぉ。それにしてもシロとはまた直球な名前をつけられたものじゃな。お主名前を教えんかったのか?』


『話す機会を逃した』


『お主という奴は・・・』


レイナが服をクイっと引っ張り不安そうな表情を見せたので、ギルドのある場所を教えてもらう。


「そこの角を右に曲がって二つめを左に曲がると赤い屋根が見えてくる。そこがギルドじゃからのぉ」


「色々と世話になった。次に会う時は何か美味しいものをご馳走するよ」


楽しみにしとるからのと言ってラグシルドは手を振って去って行った。



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