嫌な再会
洞窟へと戻ってきたアルスは今までの事をレイナに悟られないようにブルブルと頭を振り深呼吸する。
レイナを探してキョロキョロと洞窟を見渡すが、レイナの姿が見えない。
耳を澄ましてみるとバシャバシャという音とともにレイナの声が聞こえる。
まさか、溺れているのか!?
急いで音のする方へ走って行くと、そこには服を脱いで裸で水浴びをするレイナがいた。
慌てて顔を背ける。
えっ、は、裸!?いや、見てない。俺は何も見なかった。
レイナはアルスを見つけると嬉しそうに手を振る。
「あ、シロだ。のどかわいちゃってここに来たんだけど、気持ちよさそうだったから水あびしちゃった!」
水浴びしちゃったとか、ビショビショだし身体を拭く物なんて持っていないのにどうするんだ。
案の定レイナは身体を拭くものが無い事に気がつき慌て始める。
「あ、どうしよう!これじゃあ服がぬれちゃう・・・そうだ、いいこと考えた!シロちょっと借りるね」
借りる?何を借りるんだ?
後ろを向いているのでレイナが何をするか分からずじっとしていると、そのままアルスの尻尾に抱きつき、濡れた身体を拭き始めた。
「えへへ、ふかふかー」
ち、ちょ!?
動揺したアルスは尻尾を揺らしてしまう。
「シロうごかないで、くすぐったいよお」
もう好きにしてくれとアルスは諦めてタオル代わりにされるのだった。
しばらくして身体を拭き終わったレイナは服を着てから翼を伸ばし、バサバサと羽ばたく。
「はあ、さっぱりした。ごめんねシロ、しっぽ使っちゃって。おこってる?」
クルゥゥと小さく鳴く。
怒ってるというより心が痛い。
レイナは俺のことをドラゴンだと思っているから恥ずかしいとは思わないのかも知れないが、こっちが恥ずかしくなるし、目のやり場にも困る。
「えーっと、じゃあお礼にこれあげる!ちょっとしゃがんでみて」
そう言われてしゃがみこむと、レイナは自分の耳につけていた青い羽根のイヤリングをアルスの耳につける。
「目の色と同じでとても似合ってるね。
シロ、なんだか悲しそうだったからこれで元気になるといいな」
自分では面に出していないつもりだったのだが、見抜かれてしまっていたようだ。
気持ちを切り替える為にもう一度深呼吸する。
さて、レイナの身体に負担がかからない程度にゆっくりと飛ぶようにしないとな。
レイナを背中に乗せようと尻尾を伸ばした時だった。
いきなり風魔法の玉がアルスに襲いかかり、慌ててレイナを身体で覆う。
「えっ!?」
ビシュンと大きな音を立てて風魔法はアルスの身体にぶつかった後弾き飛ばされ、木をなぎ倒して拡散した。
この魔法は昨夜のと同じ風魔法だ。まさか・・・
「【アースチェーン】!」
足元から石の鎖が現れアルスの身体に巻きつこうとする。
慌ててレイナを尻尾で引き離すと、きゃっと声を上げてレイナは茂みの奥へと落ちて行った。
レイナを心配する暇もなく身体に石の鎖が巻きつき、ギリギリと締め上げる。
炎を吹こうと息を吸い込んだが、素早く石の鎖が口元に巻きつき締め上げた。
引きちぎろうと力一杯引っ張てみるが、鎖はびくともしない。
「無駄無駄、この鎖は魔力を倍にして作ってある。失敗は成功の元ってね」
木の陰から現れたのは昨夜にアルスを襲った少年だった。
「今度こそーーー」
「ダメ!シロをいじめないで!えいっ」
「よ、幼女ぐへぇ!?」
レイナが投げた石は少年の顔面に直撃すると、少年は仰け反りそのままドサッと倒れこむ。
あー、これは痛そうだ。
顔を押さえて悶絶する少年には目もくれず、レイナはアルスに駆け寄ると木の棒で石の鎖を叩き始める。
「この、えいっ、今助けるから!」
レイナは一生懸命に叩いているが、それではこの鎖は壊せない。
レイナにこれ以上心配させては悪い。
身体の魔力量を調節し力を込めると、鎖はミシミシと音をたてバキンッと砕け散った。
「な、何!?」
顔を抑えながらフラフラと立ち上がった少年は、強化した土魔法が破られて唖然とする。
上手く出来て良かった。
詠唱無しで使える身体強化はドラゴンの時でも使えるようだ。
「グルルルッ!!」
これ以上俺に関わるなという意味合いを込めて少年に唸り声をあげ睨みつける。
唸り声と震え上がるような冷たい目に睨まれビクリと身体を震わせる少年。
「な、んだよ・・・こんなの、思ってたのと違う。チートでドラゴンを従えてメガネっ子とかボインなエルフとか幼女とかハーレムな勝ち組人生が待っているはずなのに」
思い描いていたシナリオと現実が違うことに困惑する少年はそのまま呆然と立ち尽くしている。
こいつとは関わっていられない、早くこの場を去ろう。
尻尾でレイナを持ち上げ、背中に乗せる。
飛ぶことを伝えるために翼を数回羽ばたかせ合図した。
「あ、待ってーー」
レイナの声が聞こえず、一気に空へと飛び上がるアルス。
確かラグシルドが言うには街の方角は、あっちだったはず。レイナの様子はどうだろうか。
振り返るとレイナの呼吸が荒く顔色が悪い。
「シロ・・・降りて、お願い」
これはまずいと急いで地面へと降り立った。
ドラゴンに乗るなんて人生で無い経験だ。それに乗る鞍も手綱もない状態でレイナを乗せるのはやはり無理だったか。
心配そうに見つめるアルスにレイナは声をかける。
「ごめんねシロ。実はね、わたし飛ぶのが怖いの。風にのってどんどん離れて、このまま空に吸い込まれちゃうかもって思うと怖くなるの」
そうだったのか。しかし、空が飛べないとなると歩くしかないが、ここから歩くのは時間がかかり過ぎる。
仮に背中に乗せて歩いて行くにしろ、森が何処までも続いている訳ではない。
広い草原などの身を隠せない場所に必ず出ることになる。そうなるとハンターや冒険者などに目をつけられ面倒ごとに巻き込まれるのは目に見えている。
幸いにも目指している街は森近くにある為そこまでなら何とかなりそうだ。
アルスはレイナが落ちないように気をつけながら街へと向かうのだった。